兼続は人影のない森の中に立っていた。
目の前には白い光の玉が浮いていた。兼続は目を細めると、それに手を伸ばした。
「私の元においで…幸村」
まるで人魂のような光に兼続は名を呼んだ。
己がそうなのだと知っているかのように、光は兼続に寄る。吸い寄せられ、胸元から身体の中へと入った。
「幸村…」
幸村が瞳を開けば、兼続が目の前に居た。
白い世界。居るのは己と兼続しか居ない。
「私は…確か、戦場で…」
薄れ行く意識の中、最後に呼んだ兼続の名。呼んだ相手が目の前に居る。
「そう、お前は死んだのだ」
私を置いて。
淡々と兼続がそう告げた。
「そうですか…」
案外、あっさりと受け入れられるものだなと幸村はぼんやりと思った。
「しかし、兼続殿がこうして私の目の前にいらっしゃるのは…」
最後に会わせてくれたのだろうか。
言葉に兼続は口角を上げて、柔らかに微笑した。
「お前は私として生きるのだよ」
「私が兼続殿として?」
「そう」
私たちはひとつになったのだと、兼続の唇が紡ぐのをじっと見つめた。
兼続が言葉を終えると、白い世界が変化していった。最後に見た森の中へと。
手を見れば、己のものではない。
そう兼続のだった。
試しに握ったり、開いたりした。己の意志で動く。
兼続の言葉通り、幸村は兼続になったのだった。
「兼続殿はどうなってしまうのですか?」
声も兼続のもの。
『私はお前と共に生きる』
声が脳を震わせた。
『お前と共に生きて、お前と共に死ぬ…』
人は所詮、死ぬ時はひとりだ。幸村も最後はひとりだった。
『次はひとりにしないからな…』
兼続の言葉に幸村は静かに頷いた。
終
幸村は兼続とひとつになって、兼続と共に生きたらいいのにと思って書いた話です。
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