恋力


戦場とはいえ、兼続と幸村の二人は数年ぶりに再会した。数年前、人質として上杉に来ていた幸村は幼くあどけない少年であった幸村。今では見違えるほど、立派な青年となっていた。
懐かしさもあり、二人は兼続の屋敷にで語り合うことにした。

「相変わらず、書物がお好きですね」

幸村は、部屋を眺めながらそう言った。ゆっくりと話す口調は変わらない。
おかしな話かも知れないのだが、幸村なのだなと兼続は思った。
何処か知らない男のように感じるのだ。全く知らない他人のように。
見た目だけではない。何となしにそう感じる。
それが意味することは、解らなかった。

直ぐに解ることにはなるのだが。

幸村は、ぱらぱらと書物を捲った。兼続の手で綴られた書物。書いた姿が目に浮かぶようであった。
それに自然と笑みが零れた。
微笑を浮かべたまま、幸村は兼続の方向を向いた。

「三成殿には、もう抱かれましたか?」
「え…?」

兼続は唖然とした。幸村の言葉の意味が解らなかった。
幸村は変わらず笑みを浮かべたまま。

「聞こえませんでしたか?三成殿には抱かれたのかと、お訊ねしたのです」

兼続は口を開き、何も言えなくなった。
何を聞きたいのかが解らない。

「どうなのですか?」

再び、幸村は言葉にした。
幸村は書物を閉じると、あった場所へと戻した。

「私は…」

兼続は言葉を切った。口篭り、手を握り締めた。

「大方、貴方のことですから、寂しくなって抱かれてしまったのではないですか?」

幸村が兼続に近づいてくる。兼続は幸村に恐怖すら感じた。

「私は三成には抱かれていない!!」
「では、一人でなさっていたのですか?」

言葉に兼続の呼吸が荒くなっていく。ひぅっと息を吐いて、兼続は口を結ぶ。

「どうなされたのでしょうか」

兼続は息を呑んだ。
静かな口調なのにも関わらず、威圧感を感じた。

「私に教えてください」

幸村の言葉に首を絞められているように呼吸がままならなくなる。
その場の空気を全て吸い込むが如く、荒く呼吸を繰り返した。

「兼続殿」

幸村が近付く。
一歩一歩と近づく度にがたがたと身体が震えた。
目の前の幸村に恐怖を感じる。まるで見知らぬ男がそこにはいた。



「幸村……っ、ゆきむらっ…」

名を繰り返しながら、兼続は己のものの先の部分を指で扱いた。
乱れた呼吸と幸村の名を切なく呼ぶ声が部屋へと響く。
幸村は兼続を背後から抱き、それに手を出すわけではなくただ見ていた。

「いつも、私のことを考えながらなされてたのですか?」

耳に吐かれた言葉に兼続の身体が震えた。
幸村の指を置いていた太ももが痙攣する。兼続がどうなってしまったのか、見なくても解った。
幸村の声に感じ、兼続は達した。

「あなたは友に性的欲求を感じてしまうのですね…」

耳元で幸村がそう告げた。恥辱と申し訳なさを感じ、兼続は唇を強く噛んだ。
声の方へと顔を上げることすら出来ない。俯き、流れている白濁のものを見つめた。未だに切なげに先端からとくんとくんと震えながら欲が出てきている。

「厭らしい方だ」

蔑む言い方だった。兼続の身体は硬直した。

「っ……す…すまない…」
「友に抱かれるのでしたらまだしも、このようなことをなさるなんて…恥を知られてはどうですか?…兼続殿」

名をゆっくりと呼んだ。幸村の声に、言葉に、可笑しくなってしまったかのように身体が震える。

すっと、幸村は兼続から離れた。
思わず顔を上げれば、見下すように幸村が見ていた。その痛いまでの視線に、兼続は目線を逸らすしかなかった。

「あなたは私に抱かれたいのですか?」

幸村は上からそう告げた。びくっと兼続の身体が大げさなまでに震えたのが解る。ふっと幸村は鼻で笑った。

「私は…私は…」

兼続は、きゅゅうっと両手で己の身体を抱き締めた。指を唇に持っていくと、きりりと噛み締める。
達したばかりだというのに、身体は熱を持った。抱かれたいのだ、幸村に。
過去に抱かれたときのことを思い出した。着流しの間から覗く、あの時より逞しい幸村の身体。その身体に抱かれることを考え、震えた。

「私はあなた以外の人も抱きましたよ」

言葉が胸に刺さった。傷付ける言葉を告げながらも、幸村は微かに微笑を浮かべていた。とても冷たい微笑を。

「私はあなただけではないです」

兼続は己が非道く傷ついたのが解った。
視界が涙で揺らいだ。
どうしてこんなにも幸村が己を傷付けるのか解らないが、傷つきつつも、幸村への愛しさを抑えることが出来ない。
想っていた以上に幸村を愛しているのだと知る。
つぅっと涙が頬を流れた。

「好きだ…幸村…私は……幸村が…好きだ」

ふふっと、幸村の笑う声が聞こえた。
答えが返ってくることはなかった。ただ、兼続は乱暴に幸村に抱かれた。









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