待遇


謙信と盃を幾度と重ね合わせた氏康は、この日、上杉家に泊まることにした。
和睦を結んでいるとはいえ、他の領地。暗い帰り道、何もないとは言い切れない。

「此方の部屋をお使いください」

湯殿の後、兼続は氏康を部屋まで案内した。
そこには既に蒲団が敷かれている。
早速、氏康はその蒲団にごろりと横たわった。横には丁寧にも煙管などが置かれていた。
それに手を伸ばす。

「あと…」

兼続は、ちらりと後ろに居た女に目線を送った。必要ならばと、もて成しの為の女だ。

「女はかみさんしか抱く気はねえ」

そう一蹴する。兼続が首を振ると、女は闇へと消えた。

「代わりに、てめえが相手しろ」

咥えていた煙管の灰をこん、と音を立てて灰吹きに捨てた。

「私がですか…?」

氏康の言葉に兼続は目を白黒させた。

「その様なことを言われるとは思いませんでした」
「興味だよ、興味」
「興味…ですか」

心うちを伝えてみれば、そうと返事が返ってきた。兼続は六尺もある男だ。女とは違う。そういった趣向がなければ、勃ちもしないだろうに。

「解りました」

思っても主人の客人。
不快な気持ちにさせてはならぬと、兼続は了承した。

「支度してきます」
「待てるかよ」
「…それならば、せめて用意だけはさせてください」

濡れる女とは違う。用意しなければならないものがある。
それだけ言うと、兼続は部屋から一度出て行った。

手に何かを持ち、兼続はさほど待たずに戻ってきた。着物も薄いものに着替えている。

「遅ぇ」
「申し訳ありません」

大して待たされたわけではなかったが、氏康はそう吐いた。怒っているのではないと解っている兼続は軽く詫びる。

蒲団に寝そべっている氏康の横に座ると、小さな箱を置き、失礼しますとお辞儀をする。
立ち上がり、再び氏康の真横で座った。
帯を解く、慣れた手付き。
着物へと手をかけると、その手を止めた。

「私が貴方に抱かれるのは、愛だとかそういうものではありません」

この時代、男同士の関係は珍しくもない。氏康が抱くのは興味だと言っていたが、一応言葉にした。

「あわよくば…」

一度、言葉を切ると手を再び動かし始めた。

「貴方が私に情を持ってくだされば、私も抱かれる意味があるのですが…」

ちらりと氏康の顔を見た。
氏康は、ふんっと鼻を鳴らした。

「俺より、てめえのが情を持っちまうんじゃねえか」
「……私は謙信公からしか抱かれたことがない故、あなたに満足してもらえるのかどうかは解りません。不満がございましたら、その時は言ってくださいませ」

兼続は敢えて氏康の言葉には触れず、そう伝えた。

下帯に手をかけても何も氏康は言ってこないので、そのまま剥いだ。
だらりと下がった謙信のとも己のとも違う形状のそれを、さも初めて見るもののように触れた。
手で擦れば、僅かに硬くなり始める。
兼続は身を屈めると、先端の赤く膨れた部分に口づけた。口に含むと、鈴なりを舌先で刺激した。
それはぴくりぴくりと動きながら、膨張していく。
それを見、とりあえずは安心した。

正直、己では氏康の物が勃つとは思ってもみなかった。
抱かれるのだと解るなり、身体が火照り始めた。呼吸が荒くなっていく。
それに合わせて貪るように氏康のを奥まで含んだ。
段々とそれが猛りを増す度に、兼続の身体は疼きが増した。ずる、っと唾液の音を立てながらそれを舌で愛撫する。
そう繰り返しながら、兼続は手で帯を解く。半身のものが布を押しているのを知られるのに躊躇いがあったが、そこまでも剥いだ。

「何だ、咥えただけで勃ってんのか」

氏康が鼻で笑いながら、そこに触れた。
兼続はびくりと身体を震わせる。

「おー、結構、触っても大丈夫なもんだな」

他人のましてや男の性器など握ったこともない氏康であったが、面白いものでも見つけたかのようにそれを触った。
白いそれを根から先端へと滑らすように擦ると、氏康の陰茎の間から兼続が吐息を零した。

「ん…、ん…ふ」

吐息が零れる度に唾液が伝う。
兼続の身体があまりにも快感に満ち震えるので、氏康はからかい半分にそこを弄った。数度擦れば、はちきれそうに膨張する。先端へと向かう引掛りの部分を爪で弾いた。

「-っ…!!」

すると刺激で兼続は達した。
氏康の手の平へと、兼続の精が吐き出された。人差し指と中指とで兼続のものを挟むと、根から搾り出す。手の腹に白濁の溜まりが出来た。

「ほらよ」

兼続の前に手を差し出せば、舌で愛撫しているのを止め、溜まりに舌を近づけた。顔を紅潮させながら、白濁の液体をぴちゃぴちゃと音を立てながら舐めていった。
己の出したものを飲まされているのだというのにも関わらず、身体が興奮する。堪らずに、唾液で濡れた手を己の後ろ孔へと持っていく。
蕾を撫でれば、求め、食い込んで行った。

「俺をもて成さなくちゃならねえのに、お前が興奮してちゃしょうがないだろ?」

氏康の言葉に兼続は眉を顰めた。だが、身体は求めてしょうがない。
ふ、と小さく息を吐くと舌を離した。
手の甲で唇を拭う。苦いものが喉に絡み付く。ごくりと唾液を飲んだ。

「すみません…」
「まぁ、いい」

ふんと失笑すると兼続を見た。
立ち上がる陰茎。そして、呼吸荒げに後ろ孔を解す自慰のような姿。
それらを見ても萎えない己のものに多少なりとも驚いた。

(男も抱けるもんなのか…それとも…こいつだからか?)

口吸いしたいわけでもない。愛しいわけでもない。
だが、兼続の身体を抱いてみたいと思った。

兼続が先程持ってきた小さな箱に手を伸ばした。
中から取り出した容器を手に零した。とろとろとしたそれは油なのだと気付く。
椿か何かの油だろう。僅かに甘い香りがする。

「…良いでしょうか?」
「あぁ」

小さく返事をすれば、己のものに油が塗られた。
これで準備が出来たというわけだ。

「来い」

氏康は兼続の腕を引くと、己の上に跨らせた。
兼続は大分興奮しているのか、呼吸荒く、胸が上下している。
兼続が猛ったものを掴み、中へと挿入させていくのを氏康は何も言わずに見つめた。


















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