あいうた


未だ、火の粉が飛び散る。灼かれている匂いがした。全てが。
ここは戦場。

慶次は目の前にある、地に突き刺さった槍を見つめた。
赤い十文字槍。
持ち主の姿は何処にもない。

(慶次…)

口を開こうとした瞬間、呼ばれた気がして振り返る。
長い黒髪を靡かせ笑う、あの相手に。
だが、そこには誰もいない。

代わりに、花弁がふわりと飛んできた。
赤い戦場に舞う、一枚の白い花弁。
それに手を伸ばす。
あと少しで手に入りそうなところで、その花弁は、じゅっと火に灼かれた。一瞬にして灰になり、空へと粉々に砕け散っていく。

慶次は掴み損ねた手を強く握りしめた。

「…兼続」

己のしたことは正しいのか、そうでないのかは今ではもう知る由もない。

自然と口から歌が零れ落ちた。良く聴いていた、あの歌だ。
何度も繰り返し聴いた歌は、耳から離れずにいる。想いと同じく。
酷く悲しいその歌は、今の気持ちと合っているような気がした。泣きたくても泣けない。そんな己の気持ちを代弁するかの様に歌を歌った。


最後は笑いながら逝ったのだろうと思いながら。













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