兼続は慶次と縁側で飲みあっていた。
空には、遠く、輝く満月。
兼続は、それに手を伸ばしてみた。当たり前だが、届かない。

「この手に掴めぬ、あの月はまるでお前のようだな。不意に消え、不意に現れる。私の感情には、お構いなしだ」

薄く笑い、目を細めた。
その横顔は寂しげだが、何処か幸せそうでもある。

「案外、月は掴めるものかも知れねえぜ」

慶次は、手に持っていた盃を掲げた。そして、兼続の目の前に下ろした。
赤い盃の中の酒に浮かんだ、天と同じ満月。
慶次は、それをぐいっと口に含んだ。そして、含んだまま、兼続に口付ける。
酒を兼続へと流した。
兼続が、ごくりと飲んだのを確認すると笑う。

「盃に浮かぶ月は、俺へ。そして、次に兼続へ。ほら、掴んじまってる。此処にさ」

とんとんと、兼続の胸の間を叩いた。
月と例えられた己は、兼続の元にあると。
そう、慶次は告げた。

「随分と詩人だ」
「あんたほどじゃない」

月灯りが見えなくなった。慶次が身で隠したからだ。
代わりに金色の月に相似た髪が己を包み込む。きらきら光るそれを見、兼続は慶次を抱き締めた。

「ふふっ、私は本当に月を掴んでしまったようだ」
「捉えられた月はどうなる?」
「一生、私のものになる」
「ははっ、それも悪くないねえ」









とある本を見ていて浮かんだお話






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