熱に懊悩む


米沢は寒い。
それは春になってもだ。
宵になれば、その深さはより一層。

兼続は手に息を吹きかけた、あたたかな息が僅かばかり、手をあたためようとはするが、直ぐに冷たくなった。
こんな時は、慶次の寝ている布団に邪魔をする。
慶次は人一倍、あたたかいからだ。
金色の髪を投げて、既に大鼾をかき、寝ている慶次が入っている布団の中に脚を忍びこませてみれば、やはりそこはあたたかい。

「すまないな」

聞いてもいない相手にそう告げると、布団に入り込んだ。
自然と慶次の身体が、兼続の場所を空けた。
慶次は未だ鼾をかいたまま。

「ありがとう」

慶次が起きているわけでもないのに、兼続はそう言った。

慶次の腕を撫で、そのまま下へと運ぶと手に触れた。すると、ぎゅっと慶次が手を握る。
どちらも寝ているのにだ。
もう、身体に染み込んでしまっているかのようにそれは当たり前にされる。
兼続にも寝ている慶次が何故、そういう行動をしてくるかは解らないのだが、やはり寝ている時にでも己を想ってくれてるのだろうかと思い、顔が綻ぶ。

暫く繋いでいる内に、段々と手が熱くなってきた。逆に熱くなりすぎ、汗がじわりと浮かぶ。
兼続は手を解いた。そして、己の腹に乗せた。
そこも、慶次の熱を受けた手のお陰でじんわりあたたかくなる。
ちらりと兼続は慶次を見た。横で寝ている慶次は揺すっても起きそうにはない。

兼続は慶次の熱に疼いてしまったのだ。身体が。
慶次を起こそうにも、流石にそれは躊躇った。心地よく寝ている者を己の欲のために起こしたくはなかった。
だが、慶次の熱を感じただけで疼いてしまった身体は、己のものも持ち上げてしまっているのがはっきりと解るほどに求めている。

「……」

もう一度、確認するように慶次を見た。
やはり、起きそうにはない。
兼続は慶次の方向を向いたまま、着物の帯を解いた。下帯に触れれば、早く解けと訴えるように膨らむ陰茎。
そこをまだ、慶次の熱が冷め止まぬ手で下帯の上から撫でた。

「っ…」

思わず声が零れてしまいそうになり、慶次から顔を逸らした。
触れたそこは振るえ、布を叩く。
ゆっくりと下帯を撫でれば、先走りしたもので下帯が濡れた。滑った液が兼続の指を布越しに湿らす。
口を強く噤み、鼻で呼吸を繰り返しつつ、半身を動かした。早く取ってしまいたかったが、慶次が起きてしまうことだけは避けたかった。先程は欲の為に起こしたくないという感情があったからだが、今は自慰をしようなどとは知られたくなかったからだ。ゆっくりと下帯を剥いでいく。

熱を持ち始め、頭を擡げたそこではあったが、慶次から与えられた熱のが熱いと感じた。手で下から上へとゆっくりと撫でた後、先端から流れる液体を全体に塗りつけるように撫でた。
小さく長い息を吐くと、兼続は眸を閉じた。
思い出す。慶次が後ろから抱き締め、己のものに触れ、そこを愛撫してくれた時のことを。
思い出すだけで、先端から流れる透明は量を増した。何て、はしたない身体なのだろうと思いつつも、知ってしまった悦楽は止めることが出来ない。

慶次を起こさないように…と考えていた行為であったが、求めた身体はどうしようもなく、吐き出したい気持ちに手の動きも速まった。
布団が揺れる。でも、止めることが出来ない。

「…!?」

突然、どさりと何が降ってきた。心の臓がどきんと一度、激しく鐘を打った。眸を閉じていたので、それが何か理解するのに時間がかかった。障子から僅かに抜けた月の光りで金色だと解る。慶次の髪だ。
寝ぼけているのだろうかと其方を恐る恐るみようとするが、塞がれ、慄いた。金に眼がちかちかした。塞がれたのは唇で、いつからか慶次が起きていたのだと気付く。
叫ぶにも塞がれ、叫べない。目線が合えば、慶次の眸は笑っていた。
全身が粟立ったかと思えば、かぁっと一気に熱持った。見られていたのだ。

(何時から!!)

どんどんと慶次の胸板を叩くが、激しく絡めてくる舌は逃してくれない。
慶次は先程まで擦っていたものを握った。

「う、ふっ」

そして、やっと唇を開放した。
兼続は失った空気を求め、荒く呼吸する。

「け、慶次…っ」

慶次は握ったものに力を込めた。反発するかのように、そこは手の中で滾る。慶次は一度、手を離すと布団から起きた。
そして、兼続の身体を引くと、己の腕の中、背から抱き締めた。
どさっと身体預けるように、慶次の腕の中に兼続は入る。

「あんたは後ろから抱き締められて、こうされるのが好きだったよな」

耳元で話す慶次の声も熱く、耳から全身がぞくりと震えた。
慶次は吐息混じりに話すと、兼続を再び握った。

「あっ!」

先端を握れば、押し出されるように蜜が慶次の指先を滴る。兼続の全身が小刻みに震えた。
兼続は脚の指先で、もどかしそうに布団を捏ね繰りながら、こくりと頷く。

「それを考えてやってたのかい」

先よりも低い声で兼続の耳に囁いた。兼続の身体が腕の中で跳ね、慶次の手の中のがじわりと疼いた。

「ふ、ぅっ」

兼続は、慶次の言葉に身体がまるで全身の血が逆流しているのではないかと思うくらいの恥辱を味わった。身体が益々、熱くなる。
違うとは言えない。兼続は、低く唸った。

慶次は耳にかかる髪の上から、軽く息を吹きかけた。
また震える身体を強く抱き締めながら、髪の間から耳の中に舌を伸ばした。
なぞるように舌を這わせる。

「慶次っ…っ、…慶次」

ぴちゃぴちゃと水音が鼓膜を響かす。その音に、舌に、肌がざわめいた。
ねっとりと唾液を加えつつ舐めていたかと思えば、ちろちろと舌先だけで押すように舐める。
ただ、それだけの行為で兼続の身体は欲望に正直になっていく。
慶次の腕を強く握る。軽く、指先で掻くように撫でた。兼続が慶次を求めている。
それを知りつつも、慶次は敢えて兼続の思いには答えなかった。
耳から朶へと舌を這わせると、唇を離した。

「…何を!?」

兼続は、己の身体の浮く感覚に、強く慶次の腕を掴んだ。
そのまま脚を抱き上げ、兼続を持ち上げた。
そして、脚で襖を開けると兼続を抱き上げたまま、縁側へと出る。

「慶次っ!」

兼続は着物が肌蹴ていること、況してや自身が出たままだということもあり、止めてくれと熱願するように慶次の名を呼んだ。
慶次はそれも聞き入れず、どっかりと縁側に坐った。
月は眩しく、特に兼続を照らした。

「ほら、あんたのこれも光ってる」
「っ…!」

とろりと流れる透明を指の腹で撫ぜた。
それは光りを浴びて、きらきらと光り続ける。

「っ、ふっ、うっ」

恥辱を感じつつも、窪みから、涙のように溢れ止まらない。
慶次はその窪みを指の腹で執拗に撫ぜた。もう、撫ぜるというよりは、指を押し付けるに等しい。

「けいじっ…く、ぅ……けいじ!」

強い刺激に、兼続は慶次の腕に爪を立てた。
とろとろと、蕩けた液は兼続の薄い毛へと垂れ、そこに絡み付く。形のない流動する液体は、月を浴び輝いた。
毛がまるで金色のように染まった。

「…んっ、あ、ぅ」

肩から流れてくる金色の髪と似ていて、身体の色でさえも慶次に染められてしまったかのような感覚に陥る。

「く、ふぅ、あぁ」

胸を弄られ、滑る肌の上にぽつりとある突起を指で捏ね繰られた。
反対の手では、根元を扱かれている。

「くっ、けいじ…わたしは…わたしは…っ、あぁぁぁ」

身体の全てを預け、兼続は慶次の腕の中で体液を迸らせた。



「私は慶次が欲しかったのだ」

兼続は、不貞腐れながら着物を着込んでいる。

「そりゃあ、悪かったねえ。でも、あんたは今宵は手淫で結構だったんだろ」

そう言えば、兼続は眼を細め、ふいと慶次から顔を逸らした。

「慶次の手が熱いのが悪い」
「手?」

じっと手を見た。特に変わったところはない筈だと唸る。

「私はお前の熱に懊悩んでしまったのだ!責任を取ってくれ!!」

つまり抱けっということだ。
慶次はくくっと笑うと、色気ない口説きだねと兼続の肩を抱いた。









- - - - - - - - -
後記

兼続の自慰を手伝って終わりになってしまいました。エロい慶兼とは何かを教わったのに、全然イカせてないどころか、自慰まででした。






第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -