月夜儀式


月の形が変われど、向かう道は同じ。
今宵もまた、月が進みゆく。

謙信と兼続は二人、縁側にいた。謙信は何時ものように酒を飲み、酒が無くなればそれ兼続が注いだ。
謙信が月を仰ぐ。そして、それを見やりながら酒を飲み干し、ことりと盃を置いた。

「兼続」

名を呼べば、取り巻く空気すら変わる。
寒い風が吹き、兼続の身体がぞくりと震えた。寒さの所為だけではない。
これから始まる行為を思ってもだ。

部屋の中へと目線を移せば、そこには敷かれた布団。
そして、横に座る一人の男。

謙信へと眸を戻せば、月が影に隠れて表情が見えない。
しかし、笑ったような気がした。



「っ、うぅ、う」

兼続は布を強く噛んだ。
先程から布団の横にいた男が兼続の背に針を刺していた。男は手を動かすと背に墨を入れる。
爪の先程もないくらいの墨を入れ、手を止めた。
兼続の白い肌に時間を掛け、刻み込む。
まるで、兼続の身体に痛みを忘れぬように教え込んでいる。

その痛みは激痛。
傷口を抉られているような気分になる。
しかし、兼続はこの行為の前に必ず謙信から抱かれていた。止め処ない悦楽を与えられた身体は、些細な刺激でも酷く感じさせた。
痛みさえも悦楽に変える。
兼続の身体は善がった。小さな針が背を刺すたびに、布団と身体の間の猛ったものが小さく震える。

兼続の身体から謙信より与えられた悦楽が抜けていくと、消えるように背に映えた墨が消えた。
男は針を置くと、兼続の行為を酒を傾けながら見ている謙信の方へと向いた。
目線が合うと、謙信は盃を置き、立ち上がる。
布団に寝ている兼続の身体を抱き寄せた。

「あ、っあぁ―、あ」

謙信に抱かれた後の火照った身体にそれは描かれる。
白粉彫り。
兼続の身体が熱を持てば、ぼうっと背に浮かぶ。まだ途中ではあったが、それは龍の姿であった。

「けんしんこうっ!けんしんこう…あぁぁ、あっ!!!」

月の出ている晩のみ、兼続は謙信に抱かれ、男に描かれる。
それは一晩に三度抱かれ、そしてほんの僅かな墨で刻む。
その行為はまるで何かの儀式のようであった。



一日が終わり、背にまた少しの絵が描かれる。
次の宵も月が出れば、繰り返される行為。
刻まれた墨は熱によって浮かび、熱が冷めれば消えていく。

兼続は謙信に問うたことがあった。何故、己の背にそのようなものをつけるのかと。つけるのならば、見えるもので良いのではないかと。
その問いに謙信は答えることはなく、ただ、薄く笑っただけであった。









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後記

遅くなりましたが、リクエストありがとうございました。
思っていたよりも短いものになってしまったような気がします。
いつか続きを書いてみたいものです。






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