過ぎ去る
忍城で戦っていた幸村は兼続の姿が無いことに気付いた。
何処に行ったのだろうかと、探すが見付からない。
息を切らせながら走り続けた幸村は、寂れた古屋近くに兼続の刀が突き刺さっているのを発見した。
側には札も落ちていた。
心臓が高鳴り始めた。どくんどくんと煩く騒ぐ。嫌な予感が脳裏に浮かんだ。
幸村は中へと走った。
「兼続殿!」
古屋の中では、信じられない光景が待っていた。
ひんやりとした空気纏う薄暗い部屋の中、白い肌が揺れているのが目に入る。
「く、ふっ…うっ」
声を耐える兼続の姿。すぐ背後には氏康の姿がある。
「兼続殿…」
兼続は氏康に後ろから嬲られていた。
「…ゆき…むら…」
ぽつりと幸村の名を呼んだ。それには絶望が篭っていた。
幸村にそんな姿を見られたことは屈辱以外の何でもない。恥辱に眩暈がした。兼続は手に力を込めた。
そんな兼続の姿を見、幸村にぐわっと込み上げるような怒りが湧いた。槍を構え、氏康を討とうとするが、兼続と氏康の距離が近い。そして、氏康の真横には仕込杖の刃が抜かれて置いてある。
向かうよりも先に兼続が殺されることだろう。
幸村は耐えた。
「真田の倅か。ま、そこで見て行けよ」
氏康は嘲りを含めながら、そう吐いた。
そして、兼続を激しく揺すった。氏康は容赦なく、根元まで深く挿入してくる。身体の熱が触れ合う。
肌の当たる音が幸村の耳にも届く。それは呼吸を忘れるほど、激しい。
ぎりりっと幸村は歯を食いしばった。
「ふぅ、う、ん」
睨む幸村の目線を無視し、氏康は内部を激しく抉る。
荒々しく兼続を責めた。
「ん、っ…」
兼続はひたすら声を耐えた。幸村の前で嬲られ、喘ぐ姿など見られたくなかった。
そんな兼続の気持ちを組みつつ、敢えて激しく氏康は兼続を責め続けた。
「んんっ、んっ」
呪いたくなるように快感を感じてしまう身体。兼続は、唇を強く噛み締めた。ぶつっと切れ、血が流れる。
「兼続、声を出せばいいじゃねえか。どうせ、俺とは初めての関係じゃないだろ?」
言葉にぴくりと幸村の身体が震えたのが、氏康にも解った。
にたりと笑うと、幸村にも聞こえるように言う。
「なんだ、話してなかったのか」
兼続の身体が大きく震えた。
「教えてやれよ、兼続」
「…っ、幸村!私ごと斬ってくれ!!!」
掠れた声が、言葉を遮るようにそう言う。だが、幸村はただ眉間に皺を寄せただけだった。
そう言う兼続の言葉に疑問が浮かぶ。
余程、二人は聞かれたくない関係だったのかと。
「……!」
氏康は兼続の身体を起こした。繋がり合ったまま、膝立ちにされる。
兼続の立ち上がったものが見えた。
それは腹に届くほど立ち上がり、それどころかとろとろと濡れていた。
「ゆきむらっ…!!」
幸村の名を呼ぶも、氏康に口の中に指を入れられた。
口内を指で探られる。
「んっ、んー、ん」
唾液が指を濡らしても、尚も氏康は口に指を入れたまま。幸村の方向へとゆっくり顔を向ける。
そして、口角を上げ、笑う。
「こいつはな、幼少期に俺に嬲られてたんだよ」
そう言いながら、ぐっぐっと身体を揺すった。
兼続は目線を下に落とした。髪で表情は隠れて見えないが、雫が頬を伝い落ちたのが幸村から見えた。
幸村は、槍を握る手に力を込めた。
「可愛かったぜ。涎垂らしながら善がってな。嬲り過ぎた所為か、好きでもねえ男に抱かれても、魔羅おっ勃てて悦ぶ男になっちまったけどよ」
幸村はどんっと石突きで床を突いた。まるで黙れというかのように。
氏康はくくくっと喉を鳴らして笑った。
兼続を再び四つん這いにさせると、奥深くまで突き上げ始めた。肌を打ちつける音と、聞きたくない水音が鼓膜を刺激する。
諦めたのか、兼続が喘ぎを零し始めた。だが、声は濡れている。
そんな姿を幸村は睨むように見つめた。
「軽蔑しただろう…」
兼続は床を見つめながら、幸村にそう告げた。
身体を己の腕で抱き締めた。
「あの方が言うように、私は…」
「兼続殿」
言葉を遮るようにそう告げた。
側に寄ると、兼続の腕を解かせ、抱き締めた。腕の中で兼続が震える。
「私はあなたが好きです」
しっかりと幸村は感情を言葉にした。
吐息を零すように兼続は、その言葉に幸村の名を呼んだ。
「…幸村…」
顔を上げれば、幸村に口付けられた。
舌が絡まり、吐息が重なり合う。その優しい口付けに、兼続は息を止めてしまいたくなった。
ゆっくりと離すと、幸村は兼続に微笑した。
「私はあなたを抱きたいです。いいでしょうか?」
言うと、優しく、それでいて強く抱き締めた。
兼続はこくりと頷いた。
「あぁ、あっー…」
抱いている幸村の顔を濡れた眸で見つめながら、吐息を零した。
幸村に抱かれるのは初めてではない。
だが、すべてを受け入れられた所為もあってか、それは今まで感じたこともないような行為に思えた。
体温が上昇する。汗が流れた。
「…ゆきむら…ゆきむら…ゆきむらっ…」
何度も名を呼んだ。
幸村は微笑しながら、兼続を求めた。蕩けるくらいに激しく深く。
「…兼続殿は…私が好きですか?」
僅かに息を切らせながら兼続に訊ねた。
「すきだよ……」
揺れながら兼続はそう答えた。
「だから………すまない…」
言葉が涙で遮られた。幸村に黙っていたことを言っているのだろう。
幸村は兼続の髪を撫でると、そのまま手を頬へと持って行った。指の腹で兼続の頬を撫で、涙を拭いた。
兼続が氏康にそうされていたとしても、幸村にはこの綺麗な涙を流す相手を穢れているとは思えなかった。
屈んで、口を軽く吸う。
微笑を浮かべ、そして涙を舌で拭った。
兼続が泣くのを止めるまで、流れ続ける涙を舌で舐め続けた。
「行けますか?」
幸村が兼続に手を差し伸べた。
ふぅっと深い息を吐くと、兼続はしっかりと幸村を見つめた。
「あぁ、もう大丈夫だ」
そう言ったものの、手が震える。
先程の相手は、向かう先にいるのだ。
「さぁ、行きましょう。兼続殿」
幸村はその兼続の手をしっかりと握ると、共に走り出した。
終