「よお、謙信。兼続に中出ししたらガキが出来たから結婚させろ」

謙信の居る部屋の襖を開けるなり、氏康はそう言った。
部屋で酒を飲んでいた謙信は、表情一つ変えずに後から入ってきた兼続を見た。

「兼続…」
「…妊娠しました」

言葉に謙信はことりと、盃を置く。

「…結婚は認めない」
「あ?ガキはどうすんだ。中絶しろとか言うんじゃねえだろな」
「謙信の養子にする」
「そんなに兼続を愛してんのか?」
「愚問。…愛している。兼続には幸せになって欲しい。汝とでは…到底幸せになれるとは思えぬ」

謙信の言葉に兼続が息を飲んだのが解った。
チッと氏康は舌打ちをした。

「てめえ、いい加減にしろよ!」

拳で解らせてやると言わんばかりに、氏康は組んだ指をばきばきと鳴らした。

「野蛮な…謙信は喧嘩などしない」
「竹刀一つで他校の野郎どもを伸しちまった奴の言葉じゃねえな」
「昔のこと…」

氏康は、兼続を見た。兼続は不安そうに二人を見つめている。
深い溜息を氏康は吐いた。

「謙信…」

氏康が謙信の前に膝を付いて座る。
片手を畳の上に付くと、片方の手を二、三度握り締めた。
ふーと深い息を吐くと、強く握り締めた手を膝に置き、謙信を睨みつけるように見た。

「兼続は幸せにする。…てめえにこんなことするのは屈辱だが…兼続の父親だからな。……兼続の為にも、腹に居る子の為にも認めてくれないか………頼む」

氏康は、その場で謙信に頭を下げた。
ちらっと謙信は兼続を見た。兼続はそんな氏康の姿を見ながら、静かに涙していた。
兼続が無意識に腹を撫でているのが、目に映る。子が居るのだと、謙信にも嫌というほど解った。
ふぅと一度、息を吐く。止めよと氏康に声をかけ、手を下から上へと振った。
氏康は頭を上げる。

「兼続」

謙信は兼続に声をかけた。
兼続は涙を指先で拭うが、氏康の姿に涙が零れて止まらなかった。

「…はい」
「幸せか?」
「はい」

涙を流しながらも、微笑する兼続に謙信は目を細めた。

「謙信は煙草を吸う男は好かぬ。子の為にも良くはない」
「…氏康さんは私に中出しした日から吸ってません」
「………」
「兼続、謙信がショック受けてるぞ」

謙信は、仕組まれていたのかと思いながら氏康を睨んだ。
氏康は土下座までしておきながらも、謙信の視線の意図を汲み、にたりと笑った。

「喰えぬ、男よ」

謙信がそう言うと、知っているだろうと言わんばかりに、氏康は鼻で笑った。



他愛もない会話を繰り返し、この日は泊まることにした。
兼続の部屋に行けば、二人分の布団が並べて敷いてあった。今まで別の部屋に氏康用の布団が敷いてあったのを考えると、認めてくれたということだろう。

「お前の父親はお前と違って可愛くねえのな」
「父は可愛いですよ」
「そうか?」

氏康は、布団にごろりと横になると兼続を手招きして呼んだ。
兼続はその横に仰向けに寝転ぶ。氏康は兼続の腹に触れた。

「男も女もどんな奴も生まれるのは女の腹からだ。何ヶ月も腹に違う生命宿して、共存して、死ぬほど痛い思いをして生むんだからよ、女は凄ぇな」

あたたかな手が腹を撫でる。
その優しさに、兼続はうっとりと目を細めた。

「男は苦しんでる女の為に何もしてやれねえ。使えねえよな、ホントに」

額にキス受けながら、兼続は幸せそうに笑った。

「そんなことないですよ。一緒に居てくれるだけで、安心します」

撫でている腹の手の上に兼続は手を重ねた。
やはり初めての経験に不安を感じているのだろう。兼続の手は僅かに汗ばんでいた。
氏康は兼続の頬にキスを落とした。

「生むのは確かに女性でしょうが、男性が居なければ命が宿ることも無いですから…」

兼続は和らげに微笑した。
微笑したかと思いきや、くすくすと兼続は笑った。

「なんだ?」
「この世にたくさんの男性がいるのに、父の友人である貴方の子を生むことになるとは思いませんでした。物心ついた頃から知っているのに」
「俺なんて、お前が赤ん坊の頃から知ってるんだぜ?」
「ふふっ、そうですよね」

一拍、間を置いて氏康が口を開いた。

「兼続…」
「何ですか?」
「悪かったな…本当は、結婚してからガキ作ろうと思ってたんだけどよ…」

珍しく氏康が口篭った。

「そんな、謝らないでください」

氏康は強く兼続を抱き締めた。兼続の身体を抱き締めながら、二人分の命が腕の中にあることを己にしっかりと自覚させた。
今、腕の中に居る二人は己がこれから一生かけて守らなくてはならないもの。

「俺から聞いたが、生んでくれると言ってくれて………嬉しかった……その…」

言葉を一度切るので、兼続は氏康の顔を覗いた。
僅かに氏康の顔が赤らんでいるのが解った。

「……流石に照れるな…」

兼続は氏康を見ると、にこりと笑った。

「氏康さんは何人子供欲しいんですか?」
「4人。1人くらい女がいいが…女は嫁に行っちまう。謙信の気持ちなんて知りたくねえ…」

遠い目をしながら氏康はそう言う。
しかも、友人に可愛い娘を盗られたとなっては、己だったら立ち直れないと思った。

「兼続」
「はい」
「世界では無理かも知れねえが、日本一幸せにしてやるからな」
「それなら、もうなってます」

兼続はきゅっと氏康の首に絡みついた。
キスをし合うと、二人は幸せそうに笑った。











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