歩む道
兼続と慶次は二人、景色の美しい丘の上にいた。
目の前には真新しい土が盛られた場所があった。その場へ向かって手を合わせる。
兼続の持っていた数珠がじゃらっと揺れた。
其処は蛮頭と雪之丞が眠っている場所だった。
「わし達は、幾人の人を踏み潰して歩んで行かねばらないのでしょうか」
すっと顔を上げると兼続はそう云う。
慶次の前だからこそ、出てしまった弱音。
握り締めた数珠は重く、蛮堂が云っていた命一つ一つだと改めて実感した。
「其れが上に立つものの定めだ」
そう云ったものの慶次も思うときがある、何故あの惜しい人物が死んでしまったのかと。
「鬼になれ。景勝殿についていくと決めたときから、その覚悟出来ているはずだ」
暫く間を置いて、兼続はそうですなと呟いた。
「…つい、弱気になってしまいました」
立ち上がった兼続は、もう悲嘆な顔をしておらず、いくさ人の顔になっていた。
慶次は兼続を見て思う。己れも死んだら、この男に悲しんでもらえるのだろうかと。
優しすぎる男だとは思う。だが、その優しさも兼続の魅力なのだ。
ふと、兼続が空を見上げた。
「雨が降りますね」
風が速い。晴れてはいるが、兼続が云うように雨が降るのであろう。
再び二人の墓へと頭を下げると、兼続は馬に乗った。
「帰りましょう」
弱々しく慶次に向かってそう云う。
眼は未だに赤い。
「あぁ」
そうとだけ云うと、兼続の後に続き松風を走らせる。
兼続が乗っている馬に寄り添うような形になった。
真横に兼続がいる。
歩む道が血で塗られていたとしても、何処までもついて行こう、この者のために道を開こうと思った。
終