「本屋に寄ってもいいだろうか?」

兼続が本屋に寄ると長い。
それは幸村も知っている。最低でも2時間。下手したらそれ以上。
それでも幸村は笑顔で、どうぞと答えた。

8階まである本屋には、当たり前だがたくさんの本が並んでいる。
種類も豊富。
8階からじっくりと見ていくのが兼続は好きだった。
そんな兼続を見ているのが幸村は好きだった。

右と左と本を持ち、兼続は悩む。
片方を棚に戻しかけては悩み。
もう片方を戻しかけては悩む。
中身をぺらぺらとめくってはまた悩む。

幸村はくすりと笑った。

「一冊にしようとは思うのだが、どちらも魅力的だ。他の人に買われてしまうのを考えると…どちらも連れて帰りたい」

まるでそれが生き物のように兼続は本と接する。
時々、本に嫉妬したくなってしまうくらいに、愛しく本を見つめる。

うーと小さく唸る兼続に、幸村は微笑む。

「一つ、私が買いますよ。兼続さんが興味あるものを私は知りたいです」

ちらちらっと兼続は本と幸村を交互に見つめる。

「良いのか?幸村は他に欲しいものがあるのではないか?」
「いいえ」
「読み終えたら貸してくれるだろうか」
「勿論」

にこりと笑うと、幸村は手を差し出した。
兼続は二冊の本を交互に見ると、一冊を幸村に手渡した。

「大切にしておくれよ」

それではまるで、恋人を取られたようではないか。
幸村はそう思い、くすりと笑った。

(私も本だったら、兼続さんは大切に読んでくれるのだろうか)

そんなことを思わず考えてしまい、幸村はまたくすりと笑った。

「何だ、楽しそうだな、幸村」

兼続が笑いながら言う。

「ええ、あなたと一緒ですから」

そう言うと、また笑顔を向けた。









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後記

幸村が何だか恥ずかしい御礼SSでした。





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