ねこじゃらし
元就は、縁側で兼続の膝に頭を乗せて寝転がっていた。手に持っていた猫じゃらしをぱたぱたと動かす。
唐突に、きらりと太陽が激しく輝いた。あまりの眩しさに元就は目を細める。
兼続がそれに気付いて、ちょうど目に当たる部分に、手をかざした。
そんな兼続を下で見つめながら、元就は手に持っていた猫じゃらしを兼続の顔の前で動かした。
ゆらゆらと揺らしたかと思えば、ぺちぺちとそれで頬を叩く。
「…なんでしょうか?」
「戯れてくれるかなあと思ってね」
「私は猫ではありませんよ」
「君は猫に似ているから、つい…ね」
「あなたも猫に似ていらっしゃると私は思います」
「それなら、端から見れば、猫同士がじゃれあってるように見えるのかな」
兼続はそれに、ふふっと笑った。
その姿を見上げながら、嬉しそうに元就は目を細め笑う。
「知ってるかい?猫はね、死を予感すると誰にも知れぬところへ消えてしまうそうだよ」
表情を変えず、元就はそう言った。
「私も君の前から消えたら………」
其処まで言い、元就は言葉を止めた。
そして起き上がると、兼続を抱き締めた。
「そんな顔をさせるつもりはなかった。すまない」
兼続が深く悲しい顔になっていたからだ。
頬に口づけ、後ろ髪を撫でた。
「どうも、私は余計なことを話し過ぎてしまうようだ…」
また、耳元で詫びた。
兼続は小さく頭を振った。
「何ヶ月か振りに逢ったというのに…私は酷い男だ。ただ、君の笑う顔が見たいだけなのにどうでも良い話をしてしまった。…怒ってしまったかな?」
「いえ、…ですが、悲しかったです」
「そうだね。言った私も改めて考えてみると、悲しい。……君の側から消えたくはない」
一呼吸置く。
「君が好きだからね」
兼続はどこかくすぐったそうに、そして嬉しそうに笑った。
落ちていた猫じゃらしを拾い上げると、元就の頬を撫でた。
ふざけて、元就がにゃあと鳴く。
「信じてくれるかな?」
手に手を添えて、力が抜けた兼続の手から猫じゃらしを取った。
それで兼続の唇をはたはたと撫でた。
返事の代わりに兼続は、にゃあと小さく鳴いた。
終