しとしとと雨が地を濡らしている。
あの日から…友に刃を向けたあの日から助右衛門の気持ちを代弁するかのように、雨は降り続いていた。

助右衛門は気分を紛らわせるために、書物の写しを始めたのだったが、一向に筆が進まない。
胸の中に出来た黒く厚い雲が、もやもやと渦巻き息苦しさを呼ぶ。
溜息を吐くことすらままならなかった。

白い紙へと目を落とす。
何もない、まっさらな紙に黒い墨で名前を書いた。慶次の名を。
心を確かめるように、心の内を全て伝えるように、ゆっくりと筆を進めていく。
その墨は白に一人の漢の名を綴ろうとしている。

「っ…」

最後まで書き終えようとしたところで、右手が鈍く痛んだ。
筆が手から転がり落ちた。
書いた名の真ん中に墨が垂れ、そこから黒い闇を広がせていく。
じわじわと慶次の名を黒で消していった。

「…慶次…」

また、友を斬ってしまった気分になり、胸が酷く痛んだ。
黒はすっかり慶次の名を消してしまい、そこにはただ黒く染まった紙だけが有った。

「俺には想うことも出来ないのか…」

呟いた言葉は雨音に消えてしまった。
この雨と共に、この名と共に想いも消してしまえればいいのにと思った。

助右衛門は庭へと視線を送る。
いつまでも降り注ぐ雨に誘われるように、一つ涙を流した。













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後記
これも某所に上げたSSより、ほんの少し長くしてみました。
奥村さんはどうしても泣かせたくなってしまいます。泣く奥村さんの顔は美しいと思います。





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