書物


政宗は、兼続の屋敷の中の部屋に居た。
兼続の書物部屋。
其処は山のように書物が積まれている。
其れを政宗は眺めていた。
一見、乱雑に並べられているように見えるが、しっかりと書き手別に整理させている。
何処に何があるかも、即座に答えることが出来るであろう。

政宗は何かを探しているのか、其の山を乱暴に漁った。
山が崩れる。
適当に書物を抜き取っては、ぱらぱらと捲っていった。

「政宗!見たい書物があるならば、私に言ってくれないか!」

兼続は、政宗の其の行動に怒りを露わにした。
其れも其の筈、場所を把握しつつ、きちんと整理するのも時間が掛かる。こうも崩されてしまったのでは堪ったものではない。
直ぐに崩れた山を他の山と混じる前に直した。だが、また同じようなことを政宗は繰り返す。
山が崩れる度に兼続は名を叫んだ。

「…無いのか?」
「何だ!!」

兼続はあからさまに色を作す。
書物を捲っていた手を止めると、政宗は兼続を見据えた。

「春画は持って無いのか、と聞いておる」

政宗の質問の意図がくめず、兼続は戸惑った。

「そのようなもの…ありはせぬ」

春画というものがあるのは知っていたが、見たことすら無かった。
本来ならば、元服した男なら持っても可笑しくない。
だが、兼続には不必要。

「兼続は手淫はしないのか?」
「…そういう欲求は…あまり、無いらしい」

そう、兼続には性欲というものが全くと言っていい程無い。
無い分、余計に兼続には政宗が言った言葉に恥ずかしさがあった。
口にするのも憚る程。
聞いている政宗のが堂々としており、其れがまた兼続に恥辱を与えた。
話す必要はないのだろうが、兼続はたどたどしく言葉を紡いだ。

「わしはするぞ」

嘲るように鼻で笑い、言葉を続けた。

「貴様を犯すことを考えながらな」

兼続は、思わず政宗を見た。
笑っている政宗に背筋がぞくりと震える。
政宗から離れようとするより前に、腕を掴まれた。

「何時もの威勢はどうした、兼続。わしを罵らないのか?不義だと、山犬だと」

兼続は畳に目線を落とした。
体が小さく震える。
政宗にも其れは伝わっているだろうと考えると嫌気がした。

「其れとも、わしに犯されるかも知れんのが怖いか?」

ふっと首筋に息が吹きかかった。
そのあまりの生々しさに体がびくっと震える。

くくっと政宗が笑う。

「冗談よ」

からかっているだけだと胸を撫で下ろした瞬間、耳に痛みが走った。
其の激痛に思わず、政宗の体を押した。
勢い良く政宗の体は書物の山へと飛ぶ。
書物へと倒れた政宗を見た。
政宗の口には少量ではあるが、血が垂れている。
耳を触った手を見ると、赤い血がついていた。
じんじんと耳が痛む。痛みが鐘の音のように兼続の頭に響いた。

「ほれ、見てみよ、兼続」

立ち上がると、政宗が着物の帯を解いた。
下帯を持ち上げるまでの猛った其れに兼続は動揺する。
血が体を激しく駆け巡り、切れた耳から血が大量に流れてしまうのではないかと思った。
また、耳に触れた。
じんじんと痛む其処は、やけに熱を持っている。

兼続の反応に、政宗は口角を上げ笑う。
そして、何かを言葉にした。

「……」

信じられぬ其の言葉に、兼続は言葉を返すことすら出来なかった。









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後記

たまには違う政宗をと考えたら、兼続を翻弄する政宗と純粋無垢な兼続になりました。





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