鎖
「兼続、今日はどのようにして抱かれましたか?」
御前は私を謙信公との褥を終えた後、必ず部屋へと呼ばれた。
褥の内容を聞く為にだ。
「御前…」
「兼続、言ったでしょう…?二人の時は、と」
「桃……」
御前の目が細く笑う。
「さぁ、私に教えなさい」
それは慣れたもので、まるで正確な画を今も尚、見ているように、私は御前に全てを話した。
はじまりからおわりまで、謙信公がどの様に感じ、どの様にお喜びになられたのかを。
御前は目線を右下へと落とすと、己の指先を噛む。
ふぅ、と、ひとつ吐息を漏らす。その甘さに私は下肢にぐっと力を入れた。
御前は私の目の前に腰を下ろした。
頬を撫でる。
御前の指は絹のようで、さらりと流れた。
「兼続、私の名を呼びなさい」
「…桃……」
呼ぶなり、口付けられた。それは脳を小さく痺れさす。
「愛していますよ」
「私もです…」
唇を離すとそう告げた。
御前は私など愛してはいない。
私の眸が先ほど写していたお方を愛しているのだ。
だが、其の方に抱かれる私に嫉妬はしない。
私になりたいとも思っていらっしゃらないだろう。
ただ、同じように私を抱く。
「こう、抱かれたのでしたね?」
「…あ、…ふっ、あ…は、はい…」
張形が私の心を突く。
同じ固さ、同じ長さの其れは先程の画を鮮明に思い出させる。
目を開けば、御前だが、目を瞑れば、謙信公。
私は同じように感じ、同じように喘いだ。
だが、私は御前の着物の裾を掴んでしまった。
快感に身を浸し過ぎた故の無意識であった。
ぱんと音がし、頬に鈍い痛みが走る。
直ぐに叩かれたのだと気付く。
「謙信は衣服を着ていなかったのでしょう?」
「…はい…申し訳ありません」
私は同じ抱かれ方をしなくてはならないのだ。
喩え、御前は衣服を着ておられようとも、謙信公がそうでなかったのならば、そう接しなければならない。
「いいのですよ、兼続。ですが、気をつけなさい」
私の頬をひたりと撫でた。
その気持ち良さに身が震える。
「…はいっ……」
また、私は御前に、謙信公に抱かれる。
御前がどうして、この様な抱き方をするのかは考えたことはない。
何故に私を抱くのかも考えたことはない。
だが、私は謙信公も御前も愛しているというだけは確かだ。
私の身体が二人をより一層深く繋げていると思うと、感動は一入。
此れ以上の喜びなど有り得ないだろう。
私は、白々とした衣服がゆらふらと揺れるのを見つめながら、ゆっくりと眸を閉じた。
終