「なぁに、作ってんだ?」
煙草をぷかぷかと吹かしながら、氏康は兼続にそう聞いた。
兼続は台所でなにやら、お菓子を作っている。
甘ったるい匂いが漂う。
「クッキーですよ、バレンタインのお礼の」
そう言いながら、生地を切るように練る。
ふうん、と氏康は興味なさそうに言った。
鼻歌交じりにクッキーを作っている兼続を、壁に寄り添いながらぼんやりと見つめた。
白いエプロンをしている兼続。
じろじろと嘗め回すように見た。
「なぁ、ちょっと脱いでみろよ」
突然、氏康はそう言った。
え?と兼続が見る。
「脱げ、て言ってんだよ」
とんとんと灰を流し場へ落とした。
「裸になれと?」
「そう。で、エプロンするんだ」
「どうしてですか?」
「俺が見たいから」
兼続に近づくと、ふぅっと煙草の煙を顔に吐き掛けた。
げほげほと兼続は咽た。
「やってくれるよな?」
にやりと笑う。
見たいのでしたら、と兼続は顔を赤らめた。
一度、部屋に消える。
暫くして、ひょっこりと顔だけ出した。
「こんなの見て、面白いのですか?」
「さぁね」
ふぅと、また白い煙を吐く。
躊躇いながらも部屋から出てきた。
「…やはり心もとないと言いますか…恥ずかしいです」
恥ずかしがる兼続を余所に、氏康は兼続を嘗め回すように見た。
それに、かぁっと身体が熱くなった。
「ほら、後ろ向いてみろ」
「後ろですか?」
「早くしろ」
うぅと唸りながら、兼続が背を向ける。
首もとの紐と、背に縛られている紐以外はほぼ全裸。
だが、それは全裸よりも恥ずかしかった。
「んー…」
氏康は小さく唸って、兼続の臀部をぐっ、ぐっと押した。
「やりたくなってきた」
「え!?」
かちゃかちゃとベルトを外す音が聞こえた。
兼続はオーブンを見た。
クッキーは今、オーブンの中。
少し時間を長めに設定してしまった。
きちんと見ていないと、焦げるだろう。
「ま、待ってください!クッキーが!!」
「俺が待てる男だと思ってんのか?兼続」
「……んっ、んん」
「身体は正直だな。…いじらしいねぇ」
「ひっ、あ、…な…何ですか?」
背を伝う冷たい雫に兼続はぞくっと身体を振るわせた。
「オリーブオイル」
オリーブオイルはそのまま伝い、臀部の間へと流れた。
「っ、…う…」
また臀部を掴まれたかと思えば、中を分けて入ってくる太い指。
口を閉じていたはずのそこは、オイルの力も加わり、簡単に解ける。
兼続は、直ぐに快感を得た。
甘ったるい吐息に変わる。
氏康は指に吸い付く、赤く腫れたそこを見た。
「そんなに気持ち良いのかい」
聞けば、きゅうっとそこは締まる。
もっと欲しくて仕方ないのだろう。指を離さない。
氏康は煙草を流し場へと捨てると、兼続に覆いかぶさるように後ろから抱き締めた。
「あー、解った、解った。俺が悪かった!!」
氏康はそう叫ぶように言った。
兼続の手には焦げたクッキー。
案の定、行為が終わったあとに慌てて見たクッキーは、最適な焼き時間などとっくに過ぎ、自分たちをほっておくからだと言わんばかりに黒くなっている。
無言のまま、兼続はそれを氏康の口に持っていこうとしていた。
氏康はそれを拒んだ。
「おまえたちを無駄にしてしまった、すまない…」
半分、涙目になりながら兼続はクッキーにそう呟く。
「ほら、買い物付き合ってやるから、シャワー浴びて来い!」
ふぅと氏康は溜息をつくと、煙草に火をつけた。
一緒に買い物が出来るのが嬉しいのか、兼続はそわそわしだした。
ことんと皿をテーブルに置くと、シャワーを浴びに部屋から出て行く。
「…誰にやるんだか知らねえが、こんなもんまで作ってなぁ」
焦げたクッキーを一枚、摘みあげた。
兼続の料理は鍛えられていたこともあってか、相当だった。
これも焦げてなければ、かなりの味だっただろう。
氏康は摘んだものをぱくりと口にした。
苦味が口の中に広がる。
「苦ぇ…」
そう言いながらも全部口にする。
顎を撫でると、ふぅと深い溜息を吐いた。
終