「慶次、何を見ている?」
絨毯の上で寝転がりながら、慶次は一冊の本を見ていた。
「通販の本」
「珍しいな、慶次」
ひょいと覗けば、やはり通販の本だった。
慶次には似合わないその本を隅から隅まで見つめている。
「兼続に渡すホワイトデーをどうしようかと思ってさ」
「はっはっ、そんな気にするものでもないだろう。たとえば…」
兼続はテーブルの上に乗せてあった籠の中から、一粒の飴を取った。
「この飴でもいいぞ」
「味気ないねぇ」
「慶次から貰うものなら、なんでも嬉しいぞ」
にこりと笑う。
「ホント、可愛いね。兼続は」
「そうか?」
兼続から飴を受け取ると、慶次は口に入れた。
舌で転がすと、口内は甘い味でいっぱいになる。
舌の上に乗せ、べっと出すと兼続はそれを舌で受け取った。
甘いと呟きながら、それを舌で転がした。
雑誌を挟んで向かいに寝そべる。
「これ、面白くないか?」
「面白いな」
兼続が舌を出す。
少し小さくなった飴を慶次が受け取る。
「こういうのは?」
「いらないのではないか?」
「そうか」
慶次が舌を出す。
また、小さくなった飴を兼続が受け取った。
何回か繰り返してるうちに飴は小さく、今にも消えてなくなりそうになった。
慶次と兼続が舌を絡ませあうと、飴はしゅっと消えてなくなる。
飴はなくなったが、そのまま、二人は舌を絡めあった。
慶次の熱い舌の感触に、兼続は小刻みに身体を震わせた。
「何が欲しい?」
唇を離し、慶次がそう訊ねれば
「慶次が欲しい」
兼続はじっと見つめてそう言う。
「ははっ、こっちに来いよ」
「ん…」
雑誌を退かせて、兼続を抱き締める。
ごろごろと二人転がり、笑う。
「お返しなんて気にするな。何でも嬉しい」
慶次が好きだから、何をもらっても嬉しいのだと言葉を続けた。
「あんたは泣かせてくれるねぇ」
そう言い、泣き真似をする。
兼続は、はははと笑った。
軽くキスをして、笑い合う。
兼続は頬に触ると、慶次はこつんと額をあわせた。
金色の長い髪を兼続は指で梳いた。
「好きだよ、慶次」
「俺もだぜ」
笑って、キスして、幸せだと、また二人は笑った。
終