左近はショーケースの前で悩んでいた。
中には指輪のアクセサリー類。
あげる本人の指を想像してみるが、やはり似合うものはなかった。

「すみません」

店員の女性にそう謝ると、店を出た。
なかなか、良いものが決まらない。

(結構、難しいもんですね)

これが女性にあげる贈り物だとこんなにも迷わなかっただろう。
相手は女性ではない。男だ。
だが、そもそも、もっとあっさりしたものでも構わないのだ。
貰ったチョコレートのお返し。
ホワイトデーに渡すものを左近は探していた。
その名目は三倍返しと言われていても、所詮はお返しなのであって、高いものを送らなくてもいい。
それでも、左近は似合うものを探していた。
かれこれ、一ヶ月近く探している。

(やはり、貴金属で考えるのが間違いなのかもね…)

ふと、キッチン用品を取り扱っている店の前で足を止めた。

(キッチン用品かー…)

左近はぶんぶんと頭を振った。
違う想像が頭を過ぎったからだ。
それはまるで新婚夫婦。

(男と新婚夫婦…っていうのも可笑しいですね)

だが、相手は白いエプロンがよく似合う。

また街を歩く。
何処か心が浮かれた。
相手が喜んでもらえるものを探して歩くなんてことは左近にとって初めてだった。
自然と足取りが速くなった。
かつん、かつんと革靴の底が硬いコンクリートの地面を蹴る。
コートの裾が風に揺られ、踊った。

(惚れた弱みにもほどがありますよ)

そう思いながら、次の店へ。
これをあげたらどんな顔をするのだろうかと想像するだけで、顔が緩んだ。
きりっと顔を引き締めるが、ガラスに映った自分の顔はだらしなく緩んでいる。

(男は惚れるとどうしようもない…)

やはり、どうしようもなく好きなのだ。
左近は、自分でそう思いながら照れた。

(あの人の喜ぶ顔が見たいんで、ね)

花にしようか。
それとも甘いものだろうか。
いっそ指輪?
いやいや、まだ早い。

無駄に考えが巡ってしまう。
悩んで、考えて、好きってことを改めて実感する。

(甘い罠ってやつですかね……)

スウィートトラップ。
甘い罠にかかってしまった哀れな男。
それでも幸せを感じるのだから、男はホントにどうしようもない。

ふっと笑うと、左近は次の店へと足を運んだ。









- - - - - - - - -
後記

次は兼続も出して、キスしまくりな話を書きたいなと思っています。





「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -