「ほれ」
「何だ？」

急に渡された両手くらいの大きさの箱。
何だと聞けば、開けてみろと素っ気無く言われた。
言われるがままに開けてみると、フィナンシェやワッフルクッキー、チョコレートパウンドケーキなどが入っていた。

「何故、私にこれを？」
「今日は何の日じゃ？」
「……ホワイトデーか」

カレンダーを見れば、３月１４日。
ホワイトデーだった。
バレンタインのお返しに、政宗はこの箱たくさんに詰められたお菓子を持って、兼続の家を訪ねてきたのだ。

（可愛らしいところもあるな）

兼続はそう思いながら、顔を綻ばせた。

「お礼はないのか」
「ありがとう」
「さっさと食ってみろ！」

政宗のこの突っけん貪な言い方も、自分が好きだからだと思うと可愛くて仕方ない。
また、言われるがままに兼続はパウンドケーキを口にした。

「美味しい」
「そうじゃろ？」

政宗は得意そうに胸を張った。

「…政宗が作ったのか？」

聞けば、こくりと頷いた。

「凄いな」

見た目も甘さも美味しさもどこをとっても店で売っているものと変わらない。
他のも作ったというのだから、最早感動を覚える。
また一口、ぱくりと食べた。

「政宗は？食べないのか？」
「わしはいい」

味見で十分食べたわ、と手を振った。

「いらないと…？」
「だから、わしは……」

フィナンシェの端を咥え、突き出すような形で、政宗の顔を見ている兼続。

「……」

政宗は眸を閉じると、端をぱくっと口に咥えた。
兼続が反対側から少しづつ食べているのが解った。
徐々にフィナンシェが短くなる。二人の距離も縮む。

兼続の吐息が当たったかと思えば、軽く唇が触れる感触があった。
眼を開けば、兼続が見ていた。

「っ…」

思わず赤面して、顔を離した。
まだ感触の残る、口を押さえた。

兼続は親指をぺろりと舐める。

「美味かったぞ」

そう言って笑った。

時折、政宗は兼続に弄ばれているのではないかと思うことがあった。
兼続は、平気で男心を擽るようなことをする。
人を「不義」だ「不義」だと嗜めるが、よっぽど兼続の兼続の方が不義ではないかと政宗は思う。

「当たり前よ、わしが作ったのだからな」

ふいっと顔を逸らすと、手で兼続の方向へと顔を向けさせられた。

「私も食べたいか？」

微笑する。

「なっ……」

やはり兼続のが不義なのではないかと叫びそうになった。
そんな言葉を言ってしまったら、兼続の思う壺だろう。
きっと、「不義と言う言葉が出るのなら、お前の口から義という言葉が出るのも間もないな」とか言い出すに違いない。
きゅっと政宗は口を噤んだ。

「いらないならいい」
「いるに決まっておるじゃろ!!」

思わず叫んでしまった。
ふっと兼続は笑う。

翻弄されるにもほどがあると、政宗は頭を抱えた。
兼続の大人の余裕が気に入らない。
こればかりはどうしようもないといっても、やはり兼続を自分で弄んでやりたいと思う。

「覚えておけよ、兼続！今夜は寝かさぬからな！」
「まぁ、ほどほどにしてくれよ」

兼続はひらひらと手を振った。

「知らぬわ、馬鹿め」

そう言って、キスをする。
兼続とのキスは甘ったるい菓子の味がした。





終