幸村は顔を綻ばせながら、歩いていた。
あまりにも幸せそうなその顔は見ている者でさえ、釣られて顔を綻ばせてしまうほど。
人がこちらを見ているのに気づき、幸村はきゅうっと口を閉じた。
だが、直ぐにふよっと口が緩んでしまう。

原因は一本の電話。

「渡したいものがあるから、今から逢えないだろうか」

その言葉は幸村の顔を綻ばせるのには十分だった。
逢いたい。
好きな相手に逢える喜び。
それは幸村を急かす。気づけば走っていた。
急がずとも、時間はまだ早いと言うのに。

待ち合わせ場所、駅前の時計塔の下。
まだ兼続の姿はない。
それもそのはず、約束の1時間前。
幸村は携帯を握り締めたまま、そわそわと辺りを見回した。
逸る気持ちが抑えられない。

どんな雑踏の中でも、幸村は兼続を見つける自信はあった。
自分もだが、兼続の背が高いとかだけではない。
幸村には兼続の周りがきらきらと光っているように見えるのだ。
そこだけ、明るく眩しい。
そこだけ、世界が違う。
何の魔法なのだろうかといつも思っていた。

ぶぶぶと携帯が鳴った。
メールの受信だった。勇んで見れば、三成からのメール。
あからさまに幸村は肩を落とした。
きっと百面相。
隣で同じように待ち合わせをしているのだろう女性がくすくすと笑った。
恥ずかしさに顔が熱くなった。

ふと、駅から歩いてくる一人の男性を目を捉えた。
あのきらきらした光りを振りまきながら近づいてくる。
何か言葉に出来ないものがこみ上げてきた。
人込みの中に駆けて、あの人を抱き締めたい。
だが、それをぐっと堪える。
やはり兼続だった。
ゆらゆらと黒い髪が揺れる。
目を見張るばかりのすらっとした長身、そして美しさ。
幸村は思わず、ふぅっと吐息を吐いた。

兼続がこちらに気づき、にっこりと笑った。
幸村も笑う。
隣の女性が可愛いと言った声も、もう幸村の耳には届いていない。
もう、兼続のことしか考えてないのだ。

「幸村、早かったな」

兼続は傍に寄ると、幸村の手を右手できゅっと握った。
反対の左側には小さな紙袋を持っている。

「はいっ、つい…早く来てしまって」

兼続を見たいのに、直視出来ない。
少し下へと目線を逸らした。

「兼続さんは相変わらず…」

綺麗ですねと言おうとして止めた。
男性がそう言われて嬉しいはずはないだろう。
兼続はありがとうと言ってくれるだろうが。

「ん?なんだ?」
「いえ……」
「何処かに入るか?それとも私の家に来るか?」
「え…っ?あ…」

兼続の家という言葉に過剰に反応してしまった。
別に疚しい気持ちからではなく、兼続の私生活を見たいという欲求からだ。

「私の家にするか?簡単なものしか作れないが、それでいいなら作るぞ?」
「手料理ですか……?」
「うん。何が食べたい?」
「何が…何が…何でも食べたいです!」

思わず声が大きくなってしまった。
周りがこちらを見る。
うっと小さく唸って、幸村はすみませんと詫びた。

「今日はビーフシチューにでもしようか。幸村はカレーのが好き?」
「私が好きなのは……、ビーフシチューが好きです」
「それは良かった。私はどちらかというと、カレーよりビーフシチューが好きでな…」
「カレーよりビーフシチューなんですね」
「そう。さー買い物して帰ろう!その前にこれ」

兼続は手に持っていた紙袋を幸村に渡した。

「なんですか?」
「バレンタインのお礼。あ、後で渡せば良かったな」

ちらっと見える四角い包み紙。

「嬉しいです!ありがとうございます!!」

思わず破顔一笑。
兼続も嬉しそうに笑った。

「何でしょうか…?」
「あとでの秘密」

兼続は幸村の袖をぐいと引っ張った。

「さ、行こうか」
「はい」

二人は笑うと、駅の方向へと消えていった。









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後記

恥ずかしいSSがテーマの恥ずかしいSSでした。





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