恋の木


いつも追う視線の先には同じ人。
いつも探しているから、直ぐに解る。その人が何処にいるのか、どこへ行ったのか。
白い白い、あたしとは似ても似つかない人。

「兼続殿!」

幸村様が笑う。
凄く綺麗な笑顔で。

あの人に笑う幸村様は好きじゃない。
知らない顔をする幸村様も好きじゃない。
他の人想っているのに、好き。
好きで好きでどうしようもないくらい、好き。
大好き。

あたしは恋をしていい身分ではない。
でも、恋してしまった。
守れることがせめてもの救い。
傍にいれる。
でも、苦しい。
苦しいよ、幸村様。
泣きたいのに、あたしは幸村様の前では笑ってる。
心では泣いて、顔では笑ってる。

あたしの中にある、育ってしまった恋。
それが木になる実みたいに、もいで食べられればいいのに。
それはあたしの栄養になって、幸村様を守る力になる。
恋心は、あたしの中で溶けて、消えて。
そうしたら、こんなに苦しい想いしないで、幸村様の傍に居れるのに…。



「幸村様は、抱き方って知らないですよねぇ」

あたしは聞いた。
意地悪をして、自分で言った言葉に傷ついて、それでも聞いた。
幸村様は困ったような、不思議そうな、なんとも言えない顔をした。

「あの人って、経験多そうですし〜」

あからさまに眉の間に深い皺が出来た。

「幸村様は上手く抱けないですよね。最初なんて、戸惑っちゃって、あの人を困らせちゃうんじゃないですか〜?」

幸村様が誰かを抱いたことがないことくらい解る。
あんな不器用な恋している男が誰かを抱いたことないくらい、あたしでも解る。

「何が言いたい?」

低い声。
怒っている。
声が震えてしまいそうだった。

「あたしが教えてあげましょうか?」

言葉に幸村様の顔が固まった。
何かを考えた後、からかうなと幸村様は言った。

「…私は傍に居れるだけでいい」

何処か寂しそうに幸村様は言った。
抱きたいくせに。
あの人の前で、手を強く握っているのは抱き締めたいのを我慢しているくせに。
抱き締めてしまったら、歯止めがきかなくなっちゃうからですよね。
自分のものにしたくなってしまうから、ですよね。

いやだ。
いやだ、いやだ。

綺麗な幸村様。
あたしは汚い。

好きだから、一度でいいから抱いてくださいと言えば、幸村様は抱いてくれるかな。
想ってくれなくてもいいから、一度抱かれたい。
時間が経てば、それは綺麗な思い出になって、あたしの中に残るのだろう。
そして、その想いを抱きながらあたしは散るんだ。
想いと共に。

幸村様が遠くを見つめた。
あの目だ。あの人が此方に来ているのか…。
あたしはひょいと木へと飛んだ。

幸村様が笑う。
もう、あたしとの会話なんて忘れている。
幸村様の中はあの人でいっぱい。
いっぱいだから、あたしなんかが入る隙間はないんだ。

あの人の顔を見たら、同じような目で幸村様見て、笑ってた。
なんだ、二人とも慕い合ってるんじゃん。
でも、幸村様には教えてあげない。
このくらいの意地悪許されるよね。

「好き…好き…」

木の一番上に上って、沈んでいく夕日見ながらそう呟いた。
言葉はぱちん、ぱちん、と消えてなくなる。

「好き、好き」

綺麗だけど、その言葉は傷つける。

「…好き……っ…」

夕日があまりにも綺麗だから、あたしはその美しさに泣いた。









- - - - - - - - -
後記

何だか携帯小説にありそうな感じになってしまいました。くのいち→幸村→兼続。
日記に書いたときはもっと不義な感じではありましたが、くのいちの片想いで終了という形になりました。





「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -