誰にも言えない


宵になると聞こえる、布ずれの音。
そして時折漏れてくる、吐息。其れは甘ったるく、まるで砂糖菓子のよう。
耳に届くと、ふわりとろける。

隣は兼続の部屋だ。
先ほど聞こえた会話。確か話していた相手は謙信。
幸村には二人が何をしているのかは解らない。だが、何処か兼続は興奮しているように感じた。弾む息。
何故だか解らないが、下半身が疼く。
熱を持つ。

「……」

幸村はぎゅっと両手で耳を塞ぐ。聞いてはいけないのだと思ったからだ。
だが、吐息が耳にまとわりついて離れない。まるですぐ後ろで聞こえるようだった。

いつの間にか、そのまま眠りについてしまった。

幸村は夢を見た。
己は衣服を纏わず、布団の中にいた。
腕の中に兼続を抱いていた。兼続もまた、纏ってなく白い肌が露わになっている。
兼続は気持ちが良さそうに身体をくねらせていた。下半身が重なりあっている。
兼続があまりにも善がるので、其れに興奮した。
身体を動かせば、揺られながらあの甘ったるい声を出した。
己が其の声を出させてるのだと思うと嬉しかった。



「おはよう。幸村」
「おはようございます。…兼続様」

幸村は気まずさに顔を見ることが出来なかった。鎖骨に目線を落とした。昨晩の夢で見た肌の白さと同じ。ごくんと唾を飲み込んだ。

「体調でも優れないか?」
「いえ、昨晩眠りにつくのが遅かったもので…」

聞かれた問いにどきりとした。咄嗟にそう答えた。
兼続の眸が微かに大きくなった。

「今日は寝ているといい」

そう言うと、目を細めた。
確かに怠さがある。幸村はそうさせてもらうことにした。

薄い障子紙から太陽の光が差す。
明るい内から眠ることなど滅多にない。横にならせてもらったとは言え、眠りにつくことが出来なかった。
布団の中で微睡んだ。

「兼続様…」

兼続の顔を思い出せば、身体が熱を持つ。
鼓動早くなる。苦しい。
下半身が何故か固くなった。昨晩の夢のせいだろうか。
手淫も知らない清らかな身体は、己の中に生まれた感情に戸惑っていた。
自然と呼吸が荒くなった。

そろりと猛った其れに触れようとした時、襖の向こうで呼ばれた。

「幸村…寝ているか?」
「か、兼続様!」

ガバッと布団から上半身を起こした。
膨らんでしまった前を隠すように布団を被せる。

すっと、襖が開いて兼続が顔を出した。

「何か食べた方がいいだろう。慣れぬ環境に疲れているのだ。桃があるのだが、食べられるか?」

布団の傍らに皿の乗った盆を置いた。

「そんな大層な物をいただくわけには…」
「遠慮するな、幸村」

にこりと兼続が笑う。
幸村はこの笑顔に弱い。はい、と小さく頷いた。

楊枝で桃を突いて、幸村の口に運ぶ。
受け取ろうと手を伸ばすが、兼続は手が汚れてしまうからそのまま食べろと言った。
口を開くと、ぱくりと食べた。
食べる様子を兼続が見つめている。何かを口に含む行為に恥ずかしさを感じた。
汁気の多い桃は、幸村が口で潰す度に果汁を滴らせた。兼続の腕を伝う。
肘から落ちてしまう前に、兼続は舌で舐めとった。
幸村は其れをじっと見つめる。
手首の汁を舐めた時に兼続は目線を上げた。幸村と視線絡む。
腕から口を離すと、ぺろりと唇を舐めた。
其れに心臓がどきりと高鳴った。

「か、兼続様もどうですか?」

わしっと桃を掴むと、幸村は兼続の唇に付けた。
己が何故そうしてしまったかは解らないが、兼続に食べさせたかった。
かりっと先端を小さく噛む。半分まで小さく噛むと、残り半分は幸村の指ごと口に含んだ。
指と舌で桃を潰す。柔らかな桃は、潰れ、ぐちゃりぐちゃりと音を発した。

はぁっと幸村の呼吸が荒くなった。

「宵になると、何をされていらっしゃるのですか」

兼続の唇が目が離せない。
唇を見ながら、幸村はそう聞いた。何時も疑問に感じていたことだ。
兼続は口元を上げて笑う。

「気持ちが良いことだよ」
「気持ちが良いこと?」

其れが何だか検討もつかない。

「内緒にしていられるなら教えてやろう」

兼続は、幼子に言い聞かせるようにそう言った。



「そ、そんなとこ…」

猛ったものに唇をつけようとした兼続の肩を握った。
ふふっと笑い、其の手を掴むと、ちゅっと其処に口付けた。
うっと小さく幸村が唸った。窪みを軽く刺激しただけで、幸村は身体を大きく震わせた。
筋の溝をなぞり刺激する。

「くっ、あっ…うっ」

幸村の口から吐息が零れた。
下肢を震わせると、口に白濁を吐き出させた。
兼続は、吐き出してもまだ猛っている其れから全て拭うように吸った。

「うぁ…」

ぐっと幸村が腰を引いた。兼続の口から出た其れは引かれた衝撃で震え、ぱちんと兼続の頬を叩いた。

「も、申し訳ありません!」

慌てて、幸村は謝罪した。兼続の頬には白い液体が垂れている。
叩いてしまった拍子についたのだろう。

「ふふふっ、元気だな」

いいよと、頬についた液を手の甲で拭った。
幸村の身体をどんっと押した。よろりと後ろに倒れる。

「私の中にもくれないか…?」
「…中?」

兼続が幸村の上に馬乗りになった。
くすくすと笑う。
やけに声が頭に響いた。

(何時もの兼続様と…)

何処か違う。
兼続が己の衣服を捲った。立ち上がった其れと、下肢の間から滴る液体。

「私と幸村、二人の内緒だぞ…」

また、くすくすと兼続が笑った。

「誰にも言えない二人だけの…な」









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後記

人質時代の幸村と妖艶兼続でしたー。
きっと、謙信公として興奮してしまった兼続がまだDTだろう幸村に手を出してしまったよって話だと思います。





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