愛は惜しみなく与う


好きな相手を守りたい。
その意識が強くなり始めた幸村は、時間さえあれば鍛錬に勤しんだ。
木から落ちる葉を敵に見たて、槍をつく。風を斬る音がし、数枚の葉が槍先に刺さった。

「精が出ますね♪」

木の枝の間より、くのいちが現れた。
あからさまに含み笑いをしている。
幸村はそれを無視し、槍を振るう。

「そんなに我武者羅に鍛えて、誰か守りたい人でもいるんですかぁ?」

事情など等に知っているくせに、くのいちは敢えて聞いた。
からかっているのがありありと解った。

「煩いぞ」

槍がぶうんと風を斬りながら、くのいちの前を通る。

「あの人でしたっけ?幸村さまがお熱な方は」

口に手を押さえ、ぷぷぷと笑う。
幸村の顔が真っ赤に染まっていった。

「くのいち!!」
「きゃはは〜、あ!!」

大きく振るった槍は飛んだくのいちの身体をすり抜けると、そのまま横へと遠心力で枝をばさばさと切り倒した。
運悪く、その先には人が居た。
その相手は急に飛んできた槍を上半身を反らし避けようとするが、避けきれず瞼辺りをすぱっと切ってしまった。

「っ…」

その相手は瞳を抑えると、その場に蹲った。
幸村の顔が先ほどとは異なり、真っ青に染まっていく。

「か…兼続殿・・・」

目の前に蹲っていたのは兼続だった。
指の間から血が滴り落ちる。
とすっ、と、くのいちは兼続の前に降り立つと、兼続の傷を見た。
深くは無いが、当分目は開けない方がいいだろうと思った。

「私は大丈夫だ…」

ぐいっと、くのいちを退けさせると、幸村の方向へと歩んだ。
暗い闇の中、先ほど幸村が居たはずの場所へと足を進める。一歩、一歩と足元の落ち葉を踏みながら近付いた。
何かが手に触れた。とても温かい熱は幸村のもの。闇に光りが一つ差したようで兼続はほっと胸を撫で下ろした。

「幸村」

名を呼べば返事はない。
がたがたと身体が震えているのが解った。手を通して、振動が伝わる。

「幸村、腕を上げたな。お陰で目測を誤ってしまった」

言葉にしながら、幸村の手をぐっ、ぐっ、と握った。

「私は…私は…」

ぽたぽたと兼続の手に冷たい雫が落ちてきた。幸村の涙だと解る。

「気にしないでくれ、幸村。私がお前の力を過信しなかったのが悪いのだ。私がもっと、幸村の成長を考えていたのなら、こんなことにはならなかった」

そっと頬に手を触れた。指先で涙を拭う。

「大丈夫だよ、幸村。私は大丈夫だ」

何度も諭すと、やっと幸村は落ち着きを取り戻した。



「今は、私が兼続殿の眼になります」

屋敷に入なり、幸村がそう言った。兼続は眼を布で覆いながら、「そうしてくれると助かる」と返した。

(兼続殿を守る為にと鍛錬したのに…私は逆に…)

ぐっ、ぐっと二、三度手を握った。
傷付けたくない相手を傷つけてしまった痛みは、胸を、身体をも引き裂きそうだった。

「幸村…」

兼続が名を呼んだ。
其方を見れば、手を前に出しながら己を探す兼続の姿。

「此処です、兼続殿」

手を差し伸べる。
触れあった熱に、あからさまに安堵する兼続。
何も見れない代わりに、手で確かめる。
幸村の手を、胸を、頬を、唇を。
兼続の手が触れるのを、幸村は何も言わずに見つめた。

「幸村」

名を呼ぶ唇を見た。
厚く艶やかな唇に吸い寄せられるように、幸村はくちづけをした。

「っ、うっ、ふっ…んん、んっ」

何時もよりも甘ったるい吐息が幸村の耳に届いた。
その声に促されるように幸村は兼続の舌に舌を絡めると、転がすように舌先で刺激を与えた。そして、舌を吸う。
見えないことで神経が研ぎ澄まされているのか、唇の感触や息遣い、そして匂いに、やけに感じた。舌先から痺れる。胸が弾んだ。

「ふっ…」

兼続は、腰から力が抜けてしまい、がくりと幸村の身体に倒れた。

「か、兼続殿…大丈夫ですか?」
「大丈夫もなにもないだろう、幸村」

胸元でふぅふぅと荒く呼吸する兼続を、申し訳なさそうに見つめた。

「このようなくちづけをされたら…私は…」

おかしくなってしまう。
そう胸元で呟きながら、ふぅともう一度息を漏らした。

「私との、くちづけはお嫌いでしょうか?」

兼続はその言葉の返事の代わりに、触れるだけの優しいくちづけをした。
嫌いなものかと言っているようで、嬉しかった。じんとした熱が、身体へと流れていく。

兼続の唇を見つめた。
その唇を見るだけで、余韻が身体を疼かせる。
幸村はまたくちづけた。
兼続のことは愛しい。友としてでもあり、愛するものとしても兼続を守りたい。
そう思った。

「…私は貴方を守りたいのです」

だから強くなりたい。
兼続の肩を強く握る。その力に、意志の固さを兼続は知った。
兼続からくちづけて、頬を撫でる。

「私はただ、守られるだけの弱い男ではないぞ?」

くすりと笑い、またくちづける。
口を吸い、舌を絡ます。やはり、何時も以上に感じた。己の発する甘ったるい声に、眉を寄せた。

誰かの為に強くありたいと思う心は、人を強くする。
兼続はそれを解っている。
幸村にとって、その誰かが己なのだ。心が騒ぐのを兼続は幸村に解らないように身体を少し離した。
知っていますというように頷いたのを、頬に触れていた指先で感じると、兼続は口元で笑った。

「それでも、私は貴方の為に生きたい」

うんと小さく兼続は頷いた。
幸村がまた口を開くのが解った。また、今日のことを詫びるつもりなのだろう。その前に兼続は幸村の唇を塞いだ。
愛しくてどうしようもないと言いたげに、甘い蕩けるようなくちづけをする。
頭を撫でるように髪に触れて、身体に絡む。煩い鼓動を聞かれたくないということも忘れ、強く抱き締めた。
舌を絡め、吸い上げる。激しいくちづけ。

(あぁ、溺れてしまいそうだ)

暗い闇の中で、幸村の温かな感触を感じながら兼続はそう思った。









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後記

幸兼で目隠しプレイ!と思ったので、いやらしいものになるかと思いきやそんなに激しくもなくキスしただけとなりました。
白村も黒村も好きです。






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