秋桜


外へ出ようとした兼続の前に、ぬうっと大きな影が現れた。
顔を上げれば、松風だった。だが、慶次の姿がない。
きょろきょろと見渡すが、やはり何処にもいなかった。

「慶次はどうした?」

ぶるると松風は嘶いた。
どうやら、松風だけ此処まで来たらしい。
どうしたのだろうかと首を傾げる。

「もしや、慶次の身に何かあったのか!?」

人の言葉の意味を理解している松風はぶる、と小さく鳴き、首を振った。そうではないらしい。
松風はじっと兼続を見た。そして、近付くと、額でぐいぐい己の体の方へと押した。乗れとでも言ってるようだった。

松風の行動に疑問が残ったが、従い背に乗った。
兼続の体の重みを背に感じるや否や、松風は走った。風を切る。びゅうびゅうと耳元で風が鳴いた。



広い草原で、松風は歩みを止めた。
眼前には一面に咲いた秋桜。風に靡く桃色。

「これを見せてくれる為に…?」

そう聞けば、僅かに頷いた気がした。
ありがとうと礼を述べると鬣を撫でた。少し硬い毛が指を刺激する。
気持ち良く、暫くそう撫でていた。

松風と優しく名を呼んで、身体に頬をつけた。
毛がちくりちくりと当たる。

松風がちらりと兼続の方へと顔を向けた。

「どうした…?」

言葉の後に、太く、唾液でぬめった舌がべろりと兼続の頬を舐めた。
ぞくぞくと兼続の身体が震えた。

「松風…くすぐったいぞ」

肩を竦め、そう言うが松風はやめようとしない。
何度も兼続の顔を舐めた。
あまりのくすぐったさに兼続は駆け避けた。だが、松風も追いつくとまた舐める。
追いかけっこが始まった。
暫く、そんな風に戯れていると、足に秋桜の茎が絡みつき、兼続は盛大に転んだ。

「わっ!」

桃色がぱっと散った。散った花はひらひらと舞い降りてくる。
ごろりと転がり、天を見る。その秋桜の美しさに兼続は、眼を細めた。
松風が口で摘んだ秋桜を、兼続の顔にぱらぱらと落とした。

「こら、おいたが過ぎるぞ!松風」

まるで幼子を叱るようにそう言うと、喉の奥からきゅうと嘆くように松風が声を出す。
反省しているなら良いと口を開くが、松風はまた兼続を舐めた。
舐めたかと思えば、ぐいぐいと着物の襟を口で引っ張った。

「なんだ?何がしたい松風」

松風は襟を引っ張ってもどうしようもないと解るや否や、腰で縛っている帯を噛んだ。口を横に動かすと器用に帯を解いた。

「松風?」

するりと前がはだけ、肌が露わになる。松風は身を屈めると首筋あたりをべろりと舐めた。

「っ…!?」

人間の舌とはまた違った艶めかしさに、兼続はぶるっ、と身を震わせた。
唾液が肌を伝って落ちる。其れでさえ、身体をぞくりとさせた。
駄目だと手で顔を退かせても、松風は舐めるのを止めようとしない。
段々と下へ、下へと舌を這わせていく。

駄目だというものの、与えられる快感に身体がいうことを聞かない。
芯まで痺れたようだった。息が荒くなり、されるがままになる。
ぬるっとした舌が臍の穴を舐めた。

ひっ、と小さく零し、兼続は足を閉じた。だが、松風はねじ込むように顔を入れ、舐め続ける。
快感に立ち上がってしまった膨らみを布の上からべろりと舐めた。

「あッ!!」

唾液を大量に含んだ舌で全体を一気に舐められ、兼続はその刺激に身体を仰け反らせ、達した。
まるで身体に電撃が走ったようだった。今まで感じたことのない未知の世界。身体は暫く痺れ、動かすことが出来ない。

「っ…っ、ふっ、っ、ふぅ」

身体を丸め、花の間に埋もれる。
松風がべろりと舐めるだけで、身体が仰け反る。先ほどの快感を思い出せた。
下帯の中で未だに猛り止まぬものが、ぴくりぴくりと動いた。

強引なところは似ていると思った。
共にいるから、似ているのか。それとも、似てるから共にいるのか。
兼続はゆらゆらとした意識の中で、ぼんやりとそんなことを思った。

「こんなところで何をしているのかと思えば…」

そう、この声の主にだ似ているのは…と思い、兼続は、はっと意識を覚醒させた。
起き上がれば、覗いている金髪が揺れる。

「け、慶次…」

どうやら松風を探しに此処まで来て、兼続をも見つけたらしい。
この場所は松風のお気に入りでもあり、よく慶次も連れてきていたようだった。だからこそ、慶次は直ぐに此処へとたどり着くことが出来たのだ。

下半身を隠すように着衣の前をしっかりと握った。
まさか、松風に舐められて達してしまったとは言えない。
かぁっと身体が火照るのを感じた。

「ぶるるる」

松風はそう嘶くと、慶次を鼻先でぐいぐいと押した。
退けとでも言っているようであった。

「なんだ、松風も兼続に惚れちまってたのかい?」

そう言う慶次の顔を兼続は見た。

「松風が…、私に…?」

兼続の言葉に、松風が身を寄せてきた。
鼻を鳴らして、頬を摺り寄せる。
ただ、松風がしてきた行為は慶次の真似でもしているのかと思った。だが、ただ見よう見まねにそうしたわけではなかった。
松風は松風で兼続に惚れていたのだった。
慶次との行為で兼続が善がっているのを見て、自らもそうしたいと思ったのだ。自らも兼続を感じさせたいと。

慶次は「邪魔するつもりはねえさ」と松風をがしがしと撫でた。

「なぁ、兼続。松風に抱かれてやっちゃあくれねえか?」

慶次の言葉に、兼続は目を丸くした。

「何を言って…松風は…」
「馬だって言いたいのかい?」
「…そうだ」

じっと己を、松風があの黒く潤んだ眸で見ているのが解った。気まずさに目を逸らした。

「確かに松風は馬だ。だがな、こいつも一介の武士だ。俺は、ただの馬だとは思っちゃいねえ」
「それは知っている!だが、松風は…」
「あんたを愛した、ただの男だよ」

兼続はぐっと、唇を噛み締めた。
松風を見つめた。
そろりと手を伸ばす。頬に触れた。

「松風…おまえは私を愛しているのか?」

そっと撫でた。
嬉しそうにぱちりと一度瞬きすると、兼続を見つめた。
黒い眸が兼続を映す。

「私を…抱きたいのか?」

そう聞くと、松風は身体を摺り寄せた。
そうか…と小さく兼続は呟く。

慶次がそう言ってもやはり人と馬。
結ばれることはない。

「慶次…私は松風に抱かれるよ」

そう望んでいるのならば、望みを叶えてやるべきではないのかと兼続は思った。



「あっ、あぁ―、あっ」

木の柵に手をつき、兼続は慶次からの与えられる指の刺激に身を悶えさせた。
それに加えて、松風が其処を舐める。指と舌の感触で、意識は朦朧とした。
つい、手に力が入る。
揺れる度に木の柵が軋んだ。

ずるっと慶次が手を抜いたのを合図に、松風が兼続へと身体を寄せた。
慶次が手で誘導し、松風の其れを兼続の後孔へと入れる。
人とは違った滑った粘膜の厚いそれは、ずるりと滑るように奥へと入り込んだ。

「ああぁっ―」

ぐらぐらと柵が揺れた。
思わず倒れてしまいそうになる。だが、松風との行為は己が動かなくてはならない。
呼吸を整えながら、足にぐっと力を入れた。倒れこんでしまいたい足はがくがくと震える。
刺激に慣れると腰を振った。
奥をどんどんと松風のが突く。身体を突き破ってしまうのではないかと思った。
聞いたこともない粘着性のある淫猥な音が聞こえる。
腰が無意識に激しく動いた。滾ったもので、中を掻き回させる。
兼続の身体もまた松風を求めた。

「あ、あ…いいっ、…あ、ふっ…」

慶次のでさえ届かない奥へと入れると、痺れるような愉悦。苦しいのに、気持ちが良い。

「あああッ」

何の前兆もなく、松風が兼続の中へと性を吐き出させた。どばっと波が押し寄せてくるような感覚に、強烈な快感を感じた。
劣情が散る。
足が耐え切れず、がくりと地面に倒れこんだ。
桃色が視界に入る。
流れ出てくるものを感じながら、兼続はその秋桜を見つめた。








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