感情


「はっ、…あっ、あっ」

先刻まで己に辛辣な言葉を発していた口が、今度は甘ったるい喘ぎを発する。
抱けば、反吐が出そうになる程に蕩け、快感を運ぶ。

兼続の身体には、首を中心に印があった。赤いそれは白い肌によく映えた華。真新しいのから消え入りそうなのまである。
政宗が付けたものではない。

この時代、誰から抱かれようとも何ら悪いことではない。兼続はそう育てられてきた男だ。余計に其の垣根はない。
抱きたいと言えば、抱かれるだろう。それなりに心許していれば。
だから、抱かれると愛しているは繋がらない。
其の行為はただ、互いに慰みあってるだけだ。兼続の心の内は解らない。だからこそ、余計にそう思わせた。
聞けば楽になるのに、聞けない。
其のわりに、兼続が誰か他の相手に抱かれているのが解ると、政宗の胸には醜いどろどろとした渦が生まれる。嫉妬。兼続を己だけのものにしたいという欲求。己を益々、醜いものと改めて把握させられる感情。
其れを知ってか知らずか、兼続は平気で慶次にも抱かれる。胸に華咲かせながら。

「慶次に抱かれすぎじゃ」

中は最初に抱いた時と変わらず、政宗のものを放しはしないとキツく締め付けては来るが、其処は指を入れればするりと入る。
慶次のもので、何度も弄られた証拠だ。

動きを止め、己の陰根が入ったまま、指で責めた。熱く濡れた壁の筋を突く。

「あーっ、あぁっ」

余程、其れは良いのか兼続は身体をくねらせ喘ぐ。うっすらと開けた眸からは涙が溢れてきている。
口は閉じることなく、荒い息と共に嬌声が絶え間なく続く。
兼続は、己の指の節をキツく噛んだ。自身は自覚ないかも知れないが、非道く感じているときに出る癖。

慶次にもこんな嬌声を発し喘ぐのだろうと思い、舌打ちした。
やはり己は醜いと思った。
其の感情を打ち消すように、指を抜くと、激しく突いた。
ぐちゅぐちゅと音と肌がぶつかる音が相成り聞こえる。
それに加えて兼続の嬌声。

愛や義などと言葉を吐いているときとは異なり、だらしなく開いた口を塞いでしまいたいのに、その声を聞きたいとも思う。
矛盾している。

中で果て、吐き出された精液が流れ出てくるのを見ながら、何処か虚しさを感じた。

(この感情の言葉はなんじゃ…)

もうこれが恋なのかすら解らない。
ただ、慶次に対して敵愾心を抱いているだけなのではないだろうかと、時々、思う。
好きな遊具がとられるのが嫌だとごねる童と同じ感情なのではないか、と。

泣きたくなった。
何故か無性に叫びたくなった。

「もう帰れ」

そうとだけ吐き捨てると、服を着込み、さっさと部屋を出た。
ぱたんと後ろ手で襖を閉めた。

(この感情は……)

その場にずるずると倒れこむと、両足をぎゅっと腕で抱き締めた。









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後記

愛し合っていない政宗×兼続はどうだろうかと思って、今までになかった感じのにしてみました。








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