政宗は合鍵を使い、兼続の住んでいるマンションの中へと入った。
兼続の姿は無く、部屋は静かなものだった。
「買い物か?」
政宗は一人呟く。
兼続が居ない部屋は広く、そして寂しさを感じた。
早く帰ってこないだろうかと呟きそうになり、頭を振った。
テレビでも見て、気を紛らわせようとリビングへと移動すると、机の上にB5サイズの本程の大きさの箱が二つ並んでいるのに気付く。
箱の裏を見れば、チョコレートの表示。
兼続が誰かから貰ったのだと直ぐに解った。
(幸村と三成か…)
一つは政宗でさえ知っている有名なブランドのものだった。
ふんっと鼻で笑うと、雑にそれの包装紙を破いた。ぐしゃぐしゃと丸めると、床に投げる。
箱を開けると、綺麗に輝くチョコレートの粒。
一つをぽいと口に放り込んだ。
流石は高いだけあって、味はかなりのもの。政宗は、ぽいぽいと口に運んで行く。
「ただいま・・・ん?政宗いるのか?」
玄関にあった靴を見、兼続はそう言う。
部屋へと入ると、何かが足に当たった。政宗が投げた、丸まった包装紙だ。
「勝手に私の貰ったものを食べたの・・・・政宗?」
兼続の目の先には様子が何かおかしい政宗の姿。
ソファに身を沈めて、ぼんやりとしている。
「政宗?政宗?」
近寄ると、「あぁ」と短く返事をするが、やはり反応がおかしかった。
目が据わっている。
ふと、何かに気付き、くしゃくしゃになってしまった包装紙を広げた。
原材料名の中に「ウィスキー」と書いてあった。
政宗が食べたチョコレートの中に、ウィスキーボンボンが入っていたのだ。
政宗はかなり酒に弱かった。
一度、酔った政宗に悲惨な目に合わされたことがあった兼続は、背筋が凍るような感覚に襲われた。
暫く家を出ようと思った矢先、ぐいっと身体が引かれた。
ソファにぼすんと倒れこむ。政宗に腕を引かれ、ソファに倒された。体勢を立て直そうとするが、政宗がぐっと馬乗りになってきた。
流石に兼続も上から乗られては、押し返すことも出来ない。
「ま…政宗…」
「なんじゃ、兼続」
相変わらず目は据わったままで、上から威圧してくるように睨んでいる。
兼続はぐっと身を強張らせた。
顔が近付く。
「ま…まさ・・・っ」
乱暴にキスをされた。政宗の舌が絡んでくる。
チョコレートの所為もあり、甘い。弄ぶように舌が絡み、そして舌先を軽く吸われる。
(いつもの政宗と違う…)
蕩けるようであった。
キスだけで兼続は翻弄された。
「はっ!!」
政宗が目を覚ますと、ベッドの中にいた。
シーツを剥ぐと何も着ていなかった。
(チョコを食べてからの記憶が・・・・ない・・・)
兼続が帰って来たような覚えが頭の片隅にはあるが、それ以上の覚えは無かった。
さぁっと青ざめた。
「起きたのか?」
兼続が部屋の扉を開けて入ってきた。
奥からは、なにやら美味しそうな匂いがしてくる。朝食を作ってくれたのだろう。
「か、兼続・・・わしはまた・・・」
言葉に兼続はこくりと頷いた。
二度目ともなると申し訳なさより情けなさが強かった。
石にでも押しつぶされたように、政宗の頭が重くなる。
「勝手に人のチョコレートを食べるからだぞ!」
「そ、それは兼続が・・・・!」
「む。私が何をした?」
政宗は不貞腐れて「別に」と呟いた。
(兼続があんなものを貰うから悪いのじゃ。男からチョコを貰うなど・・・)
ぎしっとベッドが軋む。
兼続が横に座ってきた。
「チョコレートはな、幸村たちが『友チョコ』だとくれたのだぞ?」
「友チョコ?なんじゃ、それは」
「友に渡すチョコレートのことだ」
「三成のはどう考えても本命ではないか!!」
兼続は包み紙に書かれていたブランド名を思い出した。
「幸村にも同じのをあげていたから、違うのではないか?」
兼続は首を傾げた。
(紛らわしい!!)
ぼすんと政宗は自分の膝を両手で叩いた。
「なんだ、ヤキモチでも妬いてくれたのか?」
兼続が政宗の額に額を合わせた。
「ば、馬鹿め・・・わしがそんなの妬くか!」
「うん」
手で触れると、政宗の頬は熱くなっていた。
思わず、微笑した。
「すまぬ…兼続・・・、わしは…」
「そうだな、痛かった」
「う・・・・」
ぎゅっと握り締めた政宗の手を包み込むように兼続が手を合わせる。
(気持ち良かったというのは内緒にしておこう)
兼続は胸の中でそう思った。
終