孫市は、目の前にある二つの包み紙を睨んでいた。
中身はチョコレートである。今日はバレンタイン、一年に一度ある『差を見せ付けられる日』だ。
勿論、それはモテる男と、そうでない男の差。

コンビニで売ってそうなお手軽なそれは、あからさまに義理だと分かる。
二つのチョコレートは政宗とガラシャから貰ったもの。
政宗に至っては「兼続が贈れと言うからな」と言われ渡されたものだ。ガラシャからも「義理じゃ」と渡された。

テレビをつければ、バレンタインの特集ばかり。

「どうせ、チョコレート会社の策略じゃねぇか」

孫市は悪態ついた。

「なんだ、いらないのか?」

振り返れば、いつの間にやら部屋に入ってきた兼続の姿。
手には作り終えたばかりのチョコレートの塊が乗った皿。しかも、小さなハート型が溢れんばかりにたくさん。

「いります!欲しいです!!」

がばっと土下座し兼ねない勢いで、孫市は兼続に駆け寄った。

「きちんと、本命だぞ」

ほらほら〜と手でチョコレートの塊を一つ摘んだ。

「ください」

そんなことを言う自分を悲しいと思いつつも、兼続の手の中のチョコレートが欲しくて仕方なかった。
本命なら尚更だ。

兼続はにっこりと笑うと、それをぱくっと口に入れた。
あっ、と孫市が口を開く。

がっかりした孫市に近付くと、兼続はキスをした。口の中で半分溶けたチョコレートを孫市の口の中へと舌で移動させる。
甘さが口の中いっぱいに広がった。

「美味しい?」

孫市は口の中をもごもごさせながら、こくこくと頷いた。

「兼続!やっぱ、俺にはお前しかいないぜ!!」
「わっ!!」

勢い良く抱きついたので、皿が飛んだ。
ソファの上にぼすんと落ちると、中のチョコレートが吹き飛んだ。
ばらばらとハートが部屋に散らばる。

「孫い・・・んんっ」

唇を塞がれる。

「チョコレートもいいけど、兼続も欲しいな…なんて」

照れ笑いを浮かべつつ、そんな歯の浮くような言葉を言う。
兼続はにこりと笑うと、首に絡みつく。
キスをすると、「部屋を片付けてからな」と耳元で呟いた。


「兼続、怒った?」

チョコレートを拾いながら、孫市は兼続の顔を覗いた。

「どうしてだ?」
「だって、お前の愛をぶちまけちまった」

散らばったハートを見つめた。

「しかも、割れちまったのもあるし…」

粉々に砕かれてしまったチョコレートを拾った。ぱくりと口に含む。

「いいよ。私の愛はこんなことでは砕けない」

言葉を聞いて、じんっと孫市の胸が温かくなった。

「ちょっと、待て」

ぎゅっと拳を胸の前に置き、さっと兼続の前に手を伸ばすと顔を反らす。

「やばい、兼続惚れ直した」
「そうか」

微笑する兼続を孫市はちらりと見た。
我慢出来ずに、がばっと抱き締める。

「ごめん。もう、無理」

その場へと押し倒した。

「私のこと好きか?」

そう言って、口にハートを押し付けた。
ぱくりと食べて、こくこくと激しく頭を振った。

「私も好きだよ」

また、にっこり。

「兼続」

名を呼んで、キスをした。

「孫市、甘い・・・」

そう言い、自分の唇をきゅっと指で摘み孫市をじっと見つめた。









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後記

思ってたよりも反応がありまして、非常に嬉しい拍手お礼でした。
二人はこういう関係が好きです。
結構、ほのぼのしてますよね。





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