檜
「ふー…」
慶次は深い溜息を吐いた。その溜息は気苦労や失望のではなく、寛ぎ、自然と口から零れたもの。
温かな湯が満たされた、檜で出来た風呂に身を浸かっているところであった。
そして、目の前には同じく湯に浸かる兼続の姿。
慶次と兼続の男二人が入っても、まだ余裕のあるその風呂は、兼続が腕の良い職人を雇い造らせたものである。
「良いねえ」
そう溜息混じりに言えば、満足そうに兼続が笑う。
「随分と良い仕事をしてくれたものだ」
檜の縁を指で撫でた。鼻腔に届く檜の香りは、心の底まで安らがせてくれる。
「ま、もう少し狭くても良かったかもな」
ちらっと兼続を見た。
兼続は、湯の温かさで火照り、白い肌が薄桜色に染まっている。
濡れた肩先まで伸びた髪を指で梳くと、耳にかけた。白い項がちらりと覗く。
流れた汗が肌を滑り、頬を撫でると湯に落ち溶ける。
ふぅと吐息を吐くと、手の甲で流れる汗を拭った。
「そうか?」
「どうせ、何時も引っ付いて入るんだろうよ」
ぐいっと兼続の腕を引き寄せた。
あっ、と小さく兼続が呟く。逞しい腕に抱かれる。
「そうだろ、兼続」
兼続の顎をくいっと上げると、柔らかな唇を吸った。
「け、慶次…何も此処で…」
外では、風呂の湯の温かい温度を保つ為に薪を焼べている家臣もいる。
部屋へ行かないかと兼続は提案した。
「こんなになっちまっているのに、良いのかい?」
口付けだけで期待してしまった身体は、すらりと伸びた下肢の間のものを持ち上げている。
其処をきゅうっと手で握った。
「っ…」
兼続は息を呑んだ。身体を震わせると、両手で口元を覆った。
慶次は先端を指の腹で弄ぶ。
己でも、その先端から滑った透明な液体が溢れているのが解った。身体が湯の温かさの火照りとは違うもので熱くなる。
慶次は兼続の身体の丁度、臀部の下辺りに太腿を入れた。ぐっと、兼続の身体を持ち上げる。
水中な所為もあり、簡単に身体は持ち上がった。
猛ってしまった欲望が湯の中から顔を出す。
兼続は恥ずかしさもあり、「やめてくれないか」と懇願した。
慶次は兼続の言葉も聞かず、それを口に含んだ。
「んっ…あっ…」
抑えている手の力が緩み、甘ったるい吐息が零れてしまった。
慶次の与える愛撫に身悶える。
身体が揺れる度に、ぱちゃぱちゃと水音が耳に届いた。
温かい慶次の舌が快感を運んでくる。欲情に眸が潤んだ。
ほんの僅か下へと目線を移せば、慶次と目線が絡み合う。
己のを咥えている姿は扇情的だった。
くらくらと、眩暈がした。
慶次が兼続の身体を浮かせていた太腿を退かせた。
腰を掴むと、身体を寄せる。
慶次の昂ぶったものが、当たった。
手も使わず、腰の動きだけでそれを動かし、入り口を刺激した。
「慶次…部屋へ…」
ちらっと外を見た。
家臣がまだいるかどうかは此処からは見えない。
言葉ではそう言いながらも、刺激を受けている其処は切なく綻んでいる。
ぐっと腰を押し付けられると、慶次の其れを口開き飲み込んでいく。
「湯、が……はいる…」
慶次の腕に爪を立てた。
慣れた兼続の中は容易に奥深くまで、飲み込む。
「ん…んん、…」
慶次が動き始めれば、ぱしゃぱしゃと腹の上で湯が踊った。
「あぁ、あ…慶次…けいじ…」
家臣のことなど頭から消えていた。ただ、本能だけが身を焦がす。
慶次の背に手を回すと、しがみ付くように強く抱き締めた。
「あ−…、っ…」
声が風呂場に響く。
「ん、ん、ぁ…だめだ、けいじ…だめ…あ、あぁ」
高い波が押し寄せたかと思えば、がくっと堕ちる様な感覚が襲う。
慶次の腰に絡んだ脚が痙攣した。
その動きが、慶次のものに強い刺激を与え、兼続の中に精を吐き出させた。
「ふっ、ふっ、」
兼続は荒い呼吸を繰り返すと、香る檜の匂いを感じつつ、ぱたりと意識を途切れさせた。
背に回していた手が、がくりと落ち、力なく湯の中に沈んだ。
「悪かったねえ、兼続」
ぱたぱたと扇子で煽ぎながら、慶次は頭を垂れた。
目の前には額に濡れた布を乗せ、蒲団に横たわる兼続の姿があった。
湯に入りすぎた為に兼続は逆上せてしまったのだ。
「慶次、あんなことをする為に造らせたのではないぞ」
「それは解ってるんだけどさ、つい…な」
「つい、でされては困る!」
がばっと起き上がるが、まだ血がのぼったままで蒲団へと再び倒れこんだ。
落ちてしまった布を慶次は拾うと、兼続の額に乗せた。
「あんたがさ、あまりにも色っぽいから…」
「私が悪いと言うのか?」
布の下から僅かに見える眸で睨んだ。
「そうは言っちゃあいねえさ」
慶次は首を傾げると、己の顎を撫でた。
「風呂ではよしとくよ」
「…それだけでは腑に落ちないが、風呂には入るだけにしてくれ」
んーと慶次は返事した。
(また、しちまいそうだけどな)
そう思いながら、扇子を強く煽いだ。
終