情合い


「あ、あぁ…はっ、あ、はっ」

蒲団に横たわり、喘ぐ兼続。強く布地を握り、身を捻じらせた。
ずっ、ずっと唾液を啜る音をさせながら、慶次は兼続の陰茎を咥えている。

「…っ、あ、あっ…い…いやだ…やっ…」

快感に飲まれそうになると、兼続は拒絶の言葉を口にした。
だが、その反面身体はそうは言っていない。はちきれてしまいそうに膨れたそれは、舌と熱の刺激で達しそうになっている。
言葉は裏返し。

「止めておくか?」

なので、そう聞けば「うー」と小さく唸って、「すまない」と謝る。
慶次を受け入れたい感情は強いのに、快楽に溺れる自分が許せないでいた。
思考が何もかも考えられなくなる行為。
謙信が教えてくれなかったその行為は、何処か不徳義なものなのではないかと思うところもあった。

まだ、身体を重ねる愛し方を兼続は知らない。
無理やりにも抱いて、愛する者と繋がる喜びを知れれば、考えも変わるだろうが、それだけはしたくなかった。
兼続は許すだろう。また、それがそう出来ない理由でもある。

閉じようとする足を開かせて、片方の手の平で下から持ち上げ、指先で根元を刺激しつつ、舌でも刺激する。
唾液を垂れ流しながら裏部分を舐めていく。
そして時折、舌先で先端にある穴を掬い取るように刺激した。

「ん、」

兼続は腰を引いた。達してしまいそうなのだろう。
逃げようとしているのを慶次は押さえつけ、喉の奥まで陰茎を入れると、思いっきり吸い、先端までずっ、と口を引く。

「あぁっ!!」

快感がぱちんと爆ぜた。
兼続の口を押さえていた手を退かせると、叫びが漏れた。身体が弓のように撓る。髪が激しく揺れた。

「あー、あっ、あー、あぁ」

慶次の口の中の陰茎がびくんと動くと、先端からごぷっと白く濁った液体を吐き出した。
小刻みに震える脚に合わせるように、液体が溢れた。
それを零すことなく、慶次は飲み込んだ。僅かに甘さを含んだ、苦味が舌を刺激する。

「ふ、ふっ、」
肩で荒く呼吸をしている兼続の呼吸を耳で聞きながら、手で兼続の陰茎を根元から絞る。
卵白に似た液が、とろりと流れ、未だにいきり起っているそれを伝わって落ちていく。慶次はそれをも舐め取った。

「・・・っ、ふ。慶次!!だから、飲むなと言っただろう!!」

慌てて起き上がると、慶次の口を押さえるが既に遅し。
ごくんと飲み終えた後だった。

「そんな苦いものを!!」
「あんたのは、ほんの少し甘いよ」
「あ、味の感想を聞いているのではない!!」
「俺のだって、兼続は飲むだろ?」

吐き出す行為が慶次を拒絶していると思うのか、吐けと言われても必ず兼続は飲み込んでいた。

(言葉では拒むのにな)

心の中で苦笑する。

「む」と唸って、兼続はそれ以上何も言わなくなった。

「俺のも、してくれるか?」

聞けば、こくりと頷いた。
慶次は天を仰ぎ屹立する、己の物を取り出す。

目を見張る太く、固いそれに両手で触れると、身を屈めた。
ふぅっと小さく吐く息が当り、ぴくんと慶次のものが反応した。

「もう、大きくなっているな」

吐息混じりに兼続がそう言う。
息が当たる度、慶次のがぴくりぴくりと反応する。

「そりゃ、兼続に興奮しているからさ」
「それは、嬉しい!」

ちゅ、ちゅ、と唇を当てて、先端から根元へと口付けた。そして、そろっと舌で撫でる。暫く舌先で側面を刺激すると、先端へと運び、口内に含ませる。入れられるところまで入れると、上下の動きを繰り返した。

根まで入れることも出来ず、かといって出来る限りの奥へと入れようとしても嘔吐いてしまい上手く出来ない。しかも、時々、歯が当たってしまう。

(慶次に気持ち良くなってもらいたいのに、中々難しいものだな)

慶次は気持ちが良いとは言うが、兼続は納得出来なかった。
してくれたように唾液を大量に含ませつつ、舌で撫で舐めていく。

慶次は兼続が己のを咥えているのを眺めながら、尻の方向へと手を伸ばす。
びくっと兼続の身体が反応した。
尻をぐっ、ぐっと握るように揉む。一度手を離し、指先を唾液で濡らした。
間にある後孔へと指を当てると、そこはひくひくと動く。待ち構えているそれに、ゆっくりと指を沈めた。くぷっと、慶次の太い指が難なく入っていった。
兼続は身体に力を込めた。無意識の内に背が徐々に反り、尻が指を入れやすいようにあがる。

(随分と、厭らしい身体になったもんだ)

慶次は兼続の身体が己のを受け入れられるようにした。
指から始まり、道具を使った。
ハスイモの葉柄の皮乾燥させたものを編みこみ、小さく形にしたものを使い、慣れた頃に徐々に大きくしていった。
その大きさも今では慶次の元と然程変わらない。
兼続が辛い思いをしないように、ゆっくりと時間をかけて、身体を仕込んだ。

(身体は十分って、感じだな)

襞は指をきゅうきゅうと締め付け、もっとと促すように腰も揺れている。
これで男を知らない身体だというのだから、ある意味素晴らしい。
探るように中の襞を指の腹で撫でながら、奥へと進ませた。

「ぁ…っ…ふっ…」

兼続の口から吐息が、慶次の陰茎にかかる。
指を増やしながらゆるゆると責め立てると、兼続は舐めている舌を止め、身体を小刻みに震わしながら快感に耐えた。
これ以上責めるなと、上目使いに慶次の顔を見つめてきた。ちらりと見返せば、再び目線を慶次の硬い黒々とした毛へと落とし、口の動きを再開させる。

(…後は、と)

指をずっと抜くと、兼続の肩をぐいっと押す。
慶次の陰茎から口が離される。ぷっと小さな息を吐いた。

「どうした?まだ、慶次は出してないではないか」

垂れた唾液を拭いながら、兼続は問う。
んーと空返事し、慶次はがしがしと頭を掻いた。

「あのさ、」
「なんだ?」
「あんたはそんなに怖いのかい?」

言葉に兼続が慶次の顔を見た。

「兼続は怖いんだろう?快感に溺れてしまうのが」

確信を突かれて、兼続は気まずそうな顔をした。
すぅと一度、視線を右に運ぶと慶次に戻す。

「…こんなにも何も考えられなくなるとは思わなかった」

ぽつり吐露する。

「行為に身を委ねていると、まず寂寞感が押し寄せてくる。慶次が傍にいるというのにだ。そして、何処か陶酔的な幸福感を感じた後、何も考えられなくなる。思考の回路が停止してしまったように真っ白になってしまう。慶次のことを考えていたいのに、それすら考えられない」

ふっと溜息を吐いた。

「指や口や道具などでこうなのだから、慶次のを受け入れたら、私はもっとどうにかなってしまうのではないだろうか。私はそれが怖い…」

白い世界が押し寄せてくる。
その先に行くと、何か良くないことが起こるのではないかと恐怖感が襲う。
怖い。ただ、怖い。

「兼続、止めよう」
「…慶次」
「しないからと言って愛が覚めるわけではないしな」

きっぱりと慶次は言い放った。

「もっと、早く聞けば良かったな。悪い」

慶次は苦笑した。

「け、慶次はこういう欲求が生まれたらどうする?」
「まぁ、そういう店もあるから…」
「駄目だ!!」

兼続は叫んだ。
すぐさま、はっと我に返った。叫んだ言葉に驚いた。

「…嫌だ。慶次が他の誰かを抱くのは…嫌だ」

きゅっと、唇を噛み、俯いた。

(自惚れていいのかねぇ)

わしわしと兼続の頭を撫でて、「兼続が嫌って言うのなら、店に行くのはやめるよ」と言った。

「では、どうする?」
「うーん、手淫かな」

からからと笑う慶次の顔を見ながら、兼続はふぅと息を吐いた。

「慶次は、快感に溺れてしまうのは悪いことだと思うか?不義ではないだろうか?」
「いや?溺れすぎちまうのは問題あるかも知れないが、時には惚れた相手と共に溺れるのも良いと思う」
「共に……惚れた相手と共に…。そうか…」
「兼続。あんたに最高の快感を俺が与えてやれるなら、これ以上の幸せはないと感じているよ」

慶次は笑う。兼続は言葉に俯いた。
葛藤しているのだろう。暫く、畳を睨んでいた。

「慶次!」

兼続は顔を上げた。見据えて、口を開く。

「私は…慶次に抱かれたい」

吐息と共に言葉を紡いだ。








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