血
夜も更けた頃、兼続は景勝が寝ている閨に現れた。景勝は寝ようと蒲団へ入るところであった。
兼続は、薄い瓶覗色の身体の線がよく解る着物を着ている。
景勝の傍へ歩み寄ると、言った。
「謙信公と同じように、私を…」
抱いてくれませんか、と。
景勝はごくっと唾を飲み込むと、解ったと短く返事をした。
「あ、…あぁ…っ、ぁ…」
寂しさを紛らわしたいのが強かった。
だが、誰でも良い訳ではなく、謙信に近い者でなければならない。
謙信の姉である綾御前の子の景勝。
(此処には、あのお方と同じ血が流れている…)
己で上で揺れる景勝の胸に触れた。
どくどくと流れる血流が伝わる。それだけで、兼続は興奮した。
「あ、はぁっ、…ほしい……」
思わず零れてしまった言葉に景勝は勘違いし、より一層激しく兼続を責めた。
身を屈めて、兼続の身体を抱き締める。
兼続はその景勝の首筋に唇を当てた。
温かい血の流れ、謙信と同じ血。
(あぁ、この血がほしい…)
眩暈がした。血が逆流するような感覚に襲われる。
ひゅっと咽喉が鳴り、乾き始めた。何かで潤したいと思った。
「っ…兼続…?」
気付けば、首筋に歯を立てていた。
舌に何か熱いものが零れる。直ぐに血だと解った。兼続は、それに異様なまでの甘美を感じた。
その味に己の血が沸いた。
「…はっ、は、はぁ…」
まだ流れてくる血を必死に舐め取ると、首に出来た穴に唇を当て吸う。身体の心が痺れてくる。
兼続は、陶酔境に浸った。
「景勝様、その首はどうなされたのですか?」
翌朝、小姓が景勝の首に小さな穴があることに気付き、そう訪ねた。
景勝は「大したことは無い」と言ったきり、何も言わなかった。
その横で兼続は、静かに微笑を浮かべた。
終
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