はじめての記憶から
かの王国の庭を訪れたのは何年くらい前だろうか。
炎に焼かれ傷つきもうこのまま息絶えるのも時間の問題かと思っていた。それならば禁忌の一つくらい破っても良いかもしれない。初めて森を抜けだし空から眺めた地上には確かに人間達の営みがあった。
その中の一つ、白亜の城壁に囲まれた小さな庭には、色とりどりの花々と木々が美しく飾られていた。
――どうせ死ぬならば、このように綺麗な場所で。
忌み嫌われた魔法使いの死に場としてはとても上質だった。森の中の花畑でもこう美しく飾られてはいない。
その庭園の上に降り立てば、体を保っていることもできず花畑の上に倒れた。目を閉じればきっとこのまま土に還れるだろう。
――疲れたからもういいんだ……。
生きていく場所なんてもうない。戻った所で殺されるだけ。そのまま目を閉じ、視界が暗闇に閉じていく。俺の命はここで尽きて、終わるはずだった。
カチリカチリと、柱時計が針を動かす音が部屋に響いていた。
昔の話だ。火傷を追い、禁忌を破り、人間の営みに触れた時の。
あの時に助けてくれた人がいたおかげで俺は生き伸びることができた。金の髪をした小さな王子。アリババ=サルージャ。傷がいえた後はすぐにその場を去ることになったが、あの時にアリババ王子が俺に見せてくれた献身とその笑顔を、森に戻ってからも忘れることはできなかった。
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