小説2 | ナノ


  悪癖


「噛んでもいい?」

唐突な願い出に、白龍は怪訝そうに、はーはーと長く呼吸をするアリババに目を向けた。
何を。誰を。いやそれは俺か。じゃあどこを。
潤む目で見つめられながら白龍はふうんと考え込んで、しばらくしてあぁ、と顔を上げた。

「どうぞ、お好きに」

言いながらぐいっと自分の着ている服の胸元をはだける。アリババが視線をやっているのは胸元から首筋だった。
互いの着るものは既に着崩され乱れていたが、白龍のほうは比較的そうでもなかった。それを敢えて自分で緩める。
アリババが、小さく声を上げて顔を背けた。

「どうかされましたか」
「や、……お前肌白いよな、って」
「なに欲情してるんですか」
「バカ、それお前だろ……顔赤いし」
「アリババ殿こそ。煽ってるんですか?」

アリババは否定せずにうるせーとぼやきながら、ゆっくりと体を起こした。上着が脱げかけて半分タンクトップになっているアリババは、覗く肌が赤く染まっている。息も荒く、そんな状態で上目で見上げてくるんだから、白龍は内心で舌打ちをした。
非常に卑猥だ。
扇情的にも過ぎる。
だから、アリババが白龍にしなだれかかってその吐息が白龍の首筋にかかった時、白龍は自分の八つ当たりに近い苛立ちを紛らわせようと、アリババの服の中に手を滑り込ませた。

「……っ!?ちょっ……は、はくりゅっ」

熱い肌をさわさわ撫ぜると、慌てたようにアリババが暴れる。滑らかにイタズラする指はひやりと冷たくて、アリババから上がる声はいちいち高い。

「……ぅ、んぁ……、く、……っ」
「い"ッ!?……ったぁ……!?」

突然アリババが思い切り白龍の鎖骨に歯を立てた。快楽に溶けているとはいえ完全では勿論なく、滲むような痛みがじわっと広がる。思わず声を上げた白龍は、目を潤ませてそれに耐えた。
だから、いきなり何だっていうんだこの人は……。
ぷるぷる震えながら堪えていたら、アリババが更にがぷがぷと首筋を噛む。さっきよりは随分甘くて、手加減しているのは分かるのだが、じゃあさっきのはなんだ一体。

「……ぅ、ふ……っ、ん……」
「……っアリババ殿、結構痛かったんですけど!」
「……お前があんな風に、触るから……仕返し?」
「理不尽……」
「ってかお前だってよく噛むじゃん」

日頃の行いが悪いからだ、とアリババが言う。くっつけたままの唇から振動と熱い息が漏れて、ぞくりと走るのは官能的な悪寒だ。
顔が、身体が火照るのを感じながら、しかし白龍は首を傾げた。

「俺、……そんな噛んだりなんかしてました?」
「は!?っマジで言ってる!?あちこち噛みまくってんじゃん、覚えてねーの!?」
「無いですね……ん、ふ……っ」

熱くて柔らかな舌が肌を這う度に、ぞわぞわと弱い電流のようなものが走る。気持ちいい。気持ちいい。
でもよがっているのを見られるのは負けな気がして、白龍は声を堪える。 呼吸を落ち着けようとして深呼吸したら、アリババの匂いが鼻腔を満たして余計に動揺してしまった。
狼狽える白龍に気付いたらしい。

「……っは、なんだよその顔っ……」

一度唇を離してアリババが白龍の顔を見つめた。はぁはぁ熱っぽく呼気を漏らし、目もとろりと溶かして、アリババがさもしてやったりと笑う。バカにされているのは分かっているが、その顔にまたひとつ余裕が消された。
なんだか非常に、悔しい。
白龍は、だから自分も笑いながら、気付いていないフリをしてあげていた衣服の盛り上がりに手を添えた。
刺激を与えるようにやんわりと包む。

「ひぅッ!?」
「そっちこそっ……こんなとこ、こんなにおっ勃ててどうかされたんですか……?」

服で擦るように優しく手を上下すると、いやいやとアリババが頭を振る。様子を見るに割と切羽詰まってる、か?少しの刺激で果ててしまいそうだ。
高い嬌声に喉が鳴った。

「ち、がっ……それ、元からぁ……っ!」
「人の首噛んだり舐めたりって……そんなにいいものですか?」
「う……ぁっ、や、やめっ……」
「変態。」
「う、ゥゥ……ッ!」

羞恥かあるいは快感からか、半泣きになったアリババが白龍の口を塞ぎにかかる。力の抜けてかすかに震える指が白龍の口元に押し付けられたが、白龍はそれをぱくりと口腔に含んだ。
バカだなぁこの人、それとも判断力が鈍ってる?やわやわ噛んだり舌をいやらしく這わせたり、その度に大袈裟なほど反応するアリババが愛おしい。
ほどなくして白龍がアリババの肩を押せば、呆気なくアリババは後ろに倒れ込んだ。柔らかい髪がシーツに散らばるのを、アリババに覆い被さりながら白龍は見物する。
悔しそうにアリババがもう片方の手で自分の目元を覆った。

「…………また……っ、主導権とられ……」
「……?そんなの気にしてたんですか」
「ったりまえ……だろ……?まぁ、結局俺が下だから意味な……ふ、ぅぁっ!ちょ、おま、人が話してっ……ひぁ……!」

ああもう、可愛いなぁ。
アリババが言い終わるのを待たずに、白龍はアリババの首筋に顔を埋めた。服の隙間から指を忍ばせると、もうアリババからの拒否の声はない。

甘いなぁ。
甘い、甘ったるい。
……でも、不快じゃあない。

「い"っ……ぅ、ほら、またぁ!」
「へ?」

耳に心地よい声に白龍が溺れていると、アリババの肌に歯を食い込ませている自分に気がついた。痛々しい悲鳴が小さく上がる。無意識下の行動だったらしく、慌ててアリババから離れ────ようと思ったはずなのに、何故か身体が動かなくて。
成る程確かに自分には噛み癖があるらしい。
まだ冷静な部分のある脳でどうしたら止まるのか白龍は考えたが、それ以上に盛った自分が邪魔をする。舐めたい噛みたい、優しく食んで反応が見たい、血が出るほどに噛んで痛がるその表情が見たい、……噛みちぎってその味を確かめたい、きっと蕩けるように甘いだろうから。
ひとまず食らいついていた肌を離したら、くっきりと歯型が付いていた。ふわりと香る金属臭。誘われるようにそこに口付ける。
アリババがぴくりと跳ねた。

「おい……ちょ、」
「大丈夫です噛みません」

僅かに滲んだ赤色を、白龍がねっとりと舐めとる。ひりつく痛みにアリババがぴくぴくと反応した。白龍にはそれすら愛おしい。
ひとまず謝らなきゃならないな、と白龍は思った。よくよく見れば、最近はすっかりご無沙汰だったから真新しいものは見当たらなかったものの、アリババの肌には半分残っていたり消えかけている歯型が散らばっていた。ひどい癖だ。即刻治さないと。
しかし無意識のうちに噛みついてるんじゃあその度に殴ってでもしてもらわなきゃ厳しいか?
頭の中で思考が一巡。取り敢えずのところは謝るか、と白龍が口を開く。

「……べ、つに、噛んでもいいんだけど」

…………開いたはいいが、声帯を震わせる前におずおずとした声が。

「っそこまで痛くしないんなら!……気持ちいい、し」

くしゃり、後頭部に手が添えられたのを白龍は感じた。髪をかき混ぜるその手には確かに嫌悪感はない。
思わず身体を起こしてアリババを見つめると、わざとらしくふいっと目を逸らされた。

貴方は甘い、甘すぎるほどに甘い。
おかしな癖が付いてしまうほどに。
……でも貴方の癖の方がよっぽど悪質じゃないか!

「……無意識下の行動って全部癖ってまとめていいんですよね……」
「は?え、白龍何のはな……」
「大丈夫です俺は売られたケンカは買うタイプの人間ですから」
「ケンカなんか売ってな……ひぁぁあああッ!?」

無自覚な煽りとか誘いとか、本当毒でしかない。
白龍は、どうかこの癖が日常的なものではありませんようにと願いながら、前戯はここで終わりだと決意したのだった。


悪癖
(しかし治してしまうには惜しい)





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はっぴばーすでーとぅーゆー♪
はっぴばーすでーとぅーゆー♪
はっぴばーすでーでぃーあちーもさーん♪
はっぴばーすでーとぅーゆー♪

……ちもさん、お誕生日おめでとうございますっ!!
時間と能力の兼ね合いであんまり大したもの書けなかったのですが、感謝とお祝いの気持ちを込めて書かせて頂きました(つェ⊂)誕生日プレゼントにするような内容かと問われれば、自分でも少々首傾げたくなるところは沢山あるのですが、ちもさんなら目をつぶってくれるはず、オールオッケーなはずと信じます(あと、ほんとはすっごいエロいの書いてみたいなぁとも思っていたのですが無理でした……ぬるいぐらいで限界……)。
とりあえず気持ちだけ届けば!私的には何の問題もないです!!(必死)
何はともあれはっぴばーすでーとぅーゆーですちもさんっ!!これからもよろしくお願い致します(ノ∀\*)ちもさん大好きですっ!!(*ノ∀ノ)

ざえも

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