小説 | ナノ


  紺のエプロン


 部屋の灯りと小さな物音にちゃんと家にいるんだと思いながら、静かにリビングへと足を踏み入れた。
 ただ、そこで待っていた状況は俺の予想をはるかに超えていて、一瞬言葉を発することを忘れてしまっていた。
「……何をやっているんですか…」
 ようやく言葉を発せば、リビングの隅で行為に没頭していたアリババ殿がびくりと背を震わせる。振り返った頬は紅潮していて、吐く息も熱そうだ。
「……ァッ、は、はく……りゅ……かえって」
 彼の手元に握られているモノ。シンプルな紺色のエプロンだ。そのエプロンは彼の手に握られてしわくちゃになり、彼の下腹部で濡れた染みを広げていた。
「こんなに汚して…しかも俺のエプロン……」
 長期出張が早く終わって黙って帰宅したら、愛しい恋人がエプロンで自慰をしているなんて普通想像もしないだろう。
「今帰りました。仕事が早めに終わったので驚かそうと思ったら……俺の方が驚かされてしまいましたね」
 すっとアリババの手からエプロンをつまみ上げると、据えた匂いが広がって思わず白龍は口元を歪めた。その下の勃ち上がったままのアリババ自身を上から眺めて、腰がくだけたままのアリババに微笑む。
「は、……はく、りゅう。その…これは……」
「せっかくですから、もっと愉しみましょう?これも、ちゃんと着て下さいね?」
「………え?」
 すっと座ったままの彼の首筋を手を伸ばして撫でれば、アリババは身体を震わせた。



「あ……う、やだ…ヌルヌルして気持ち悪い……」
「全部、あなたがやったことでしょう?」
 我ながら悪趣味だと思った。自慰をしていたエプロンをはだかに剥いたアリババ殿に着せるなんて。
 ベッドに横たわって窮屈そうに内股を擦らせているけれど、決して手で抜かせはしない。
「あなただけ気持ち善くなって俺だけおいてけぼり、なんてことないですよね?」
「アァッ!!」
 エプロンの上から握りこめば待ち望んでいた刺激にアリババ殿が背を逸らせる。
「だからまだですよ…」
 エプロンの端からしたたる先走りを掬って、見えない所の――アリババ殿の足の付け根へと指を滑らせる。
窄まりへと指をねじ込もうとして気付いた。すでにほぐしたように柔らかく、下の孔はすんなりと指を受け入れる。
「後ろをほぐす必要はもうないようですね…」
後ろも弄って自慰をしていたのかと思うと、思わず頬が緩んだ。
 前を俺のエプロンで包んでその匂いを嗅ぎながら、後ろもほぐしていたなんて誰を想ってのことなのか明白だ。あまりにも明白過ぎて思わず口元が歪んでしまう。
「はく……りゅ…」
 潤んだ目で紅潮した頬で、見上げてくる。物欲しそうに口元から唾液を垂らしながら。
「そんなに……寂しかったんですか。俺に抱かれたかった?」
 言わなくてもわかるのにやっぱり俺はアリババ殿の口から聞きたかった。意地が悪いと思う。趣味も最悪だ。こんな俺で嫌われるんじゃないかって不安になるからこそ、こうして言葉を求めてしまう。
「うん……うん……。だから……」
 紅潮した頬で、きっと考えもまとまっていないのかもしれない。けれどもはっきりと俺の眼を見てアリババ殿はつたない言葉を紡いだ。最後まで言葉を聞く必要はなかった。その視線に、狂おしいほどの情欲を認めたから。
「わかってますよ。俺だって会えなくて寂しかったんですから……」
 愛おしさをこれ以上口にするのは野暮だろう。それよりもわざわざ用意したこの状況と、久しぶりの逢瀬を愉しみたい。
 浮いて押しつけるように動く腰の奥に、反り勃った自身をすりつければ甘い声が聞こえた。望み通りに腰を押し進めれば、ひときわ高い嬌声が上がった。ナカの熱さと締め付けに息を飲めば、潤んだ瞳で見上げてくるアリババ殿と眼があった。そのまま口づけを交わしたのは必然的な流れだった。
 唾液が口の端から零れるのも構わず口づけを交わす。熱い口内を舌で堪能しながら、下から突き上げればアリババの背がしなった。びくりびくりと快感に震える体は白龍の愛撫という愛撫に答えている。とても素直になった身体だ。
――確かに、気持ち悪いな。
 俺とアリババ殿との間を隔てている一枚のエプロン。白濁に汚れ汗を吸い、濡れた布をまとうその姿はそそるのだけれど、これほど近づいてしまっては邪魔で触った感触が気持ち悪い以外の何物でもない。
今回はこの趣向できたけれど、二度目は無いな。と思いつつ、アリババ殿は後で俺のエプロンを見たらどう思うのだろう。この夜のことを思い出すのだろうか。
 忘れられない一日にして何度も思い出させたい、と思うのは随分な悪趣味だ。
「愛してます。愛してますよ、アリババ殿……」
 口を離し、息も絶え絶えになっているアリババ殿を優しく見つめた。なんて愛おしいんだろう。指先を絡め――、その時にまたエプロンに肌を滑らせようとした手の先を邪魔されて、次はもっとちゃんと考えようなどと思考の隅にいれながら、俺は激しくアリババ殿を揺さぶった。

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