悪夢の話
僕がどんなに望んでも――。
君は離れていく。
ある時はモルさんの身代わりに。
ある時はシンドリアの皆の為を思って。
ある時はバルバッドの為に。
そして、ある時は僕の為に。
差し迫った状況で事態打開の交換条件として自らを要求された時、迷うことなくアリババ君は向こうの要求をのんでしまう。躊躇わずに自分の身を差し出す。
大切な人を守れるなら、と笑って僕らのもとを去ってしまう。
酷い夢だと思う。こんなことを僕が望んでいるはずがないのに、繰り返し繰り返しシチュエーションを変えてその悪夢はやってくる。誰かが呪いで悪夢を見せているんじゃないかと僕が思うくらいに。
――僕は何もできないんだ。僕の夢なのに。
そんなことが起きるはずがないのに、『もしその時が来れば、彼は本当にそうするだろう』と思えてしまうほど、アリババ君は危ういほど優しい。哀しいほどにこれは事実だ。そんな彼だからこそ、僕は彼に惹かれたんだけれど。
目が覚める度に夢で良かったと思うことは何度もあった。彼が普段より早起きで、先に布団から抜け出していた時なんか、夢と現実を錯覚して僕は情けなくも軽くパニックに陥ったこともあった。
――ねえ、アリババ君。いつになったらこの悪夢は終わるのかな。いつになったら夢のなかでも君と一緒にいられるんだろう。
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