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01/21(Thu):花が枯れた話

カラ松は泣きごとを滅多に言わない。
4人の弟の兄という立場がカラ松をそうさせたのかわからないけれど、カラ松は自分の弱さを人に見せるのがことごとく苦手だった。
何かに不満があっても自分の中で答えを見つけて自分の中で解決してしまう。
本当は誰かに相談したいと思っても、どう相談したらいいかもわからない。
だから、もしも彼が自分の弱みを自分の悩みを誰かに相談するとしたら、それは自分の中で膨れるに膨れ上がってどうしようもなく問題や不満をもてあまして、追い詰められている時に他ならないのである。

その場に居合わせた相手にとっては、とても不運なことに。



「なぁ」
「ん?」

この日、居間にはカラ松と一松しかいなかった。
奇しくも、あの花が枯れたその翌日だった。
あの時の喧騒を思い返すと今でも一松は吐き気がする。あのブサイクなDV混じりの女とカラ松は成り行きで挙式を上げるまでの事態になっていたらしいが、挙式を上げた前後かにその女はまるで光に溶けるかのように消えたらしい。冗談なのか本当なのかあの女が花の精――妖精と言うならもう少しロマンのある外見でせめて出てきて欲しいと一松は思ったが――で、その花の寿命が尽きたからというのがその消えた理由だそうだ。
トド松は心底ホッとしたように息を吐き出したし、おそ松は別に良かったじゃんと今日もパチンコに繰り出す。チョロ松はもうそんなことを忘れたようにハロワに朝から旅立ったし、十四松に関しては何を考えているのかわからない顔で今日も野球しに出かけていった。
あの女が消えた時、カラ松だけが、途方に暮れたようにひとりで泣いていた。
その涙がどうゆう気持ちで流されたものなのか、一松にはわからなかったけれどその涙はすぐに拭われてカラ松は自分が泣いたことがなかったようにふるまった。泣いた自分なんていない、そう見せるように。
一松はというと、どうしていいかわからずにいつもと変わらないように、自分が見たことに蓋をした。カラ松が流した涙が気になっても、自分じゃ手に負えることじゃないとみなかったことにした。
そんな日の翌日だ。

外に出かければ良かったか。

んなことを考えつつ、反射的に顔を上げると何故か苦笑いしているカラ松と目があった。

「なに?」
「あの、さ……。俺って愛されることあるのかな……」

何を今さらそんなことを。クズでニートな俺達が女に愛されたいとかそんな醜い欲望の結果が、あんな悪夢のような出来事だったのにまだそんなこと言ってんのか。
いつになく自信なさげに呟くカラ松の目元は心なしか赤い。また泣いていたのだろうか。いつまでも泣くなんてカラ松らしくもない。いつもの態度はいつもの態度でイライラするものだが、そんな態度でも今のカラ松に比べたら大分マシのような気がした。
どことなく、今のカラ松には元気がなかった。いつものように鏡を見ていることもしていない。何をするにしてもその指先には怯えがかすかに感じられる。そんな中でこの発言だ。
愛されるか、なんて。

おそ松兄さんなら何かいい言葉をかけたかもしれない。
チョロ松兄さんならうまく誤魔化したかもしれない。
十四松ならカラ松の望む言葉を選んだかもしれない。
トド松なら先日のことも踏まえてアドバイスするかもしれない。

でも、俺には――どんな言葉も、浮かんでこなかった。

「愛されるって、なに?」
「え?」

残念なことにこの場に居たのは誰よりもカラ松に当たりが強い一松だった。一松しかこの場にはいなかった。
自分でも思った以上に冷たい声が出てしまったとキリリと悲鳴を上げる心を無視していつものようにカラ松を一松はじろりとにらんだ。

「この前のあの女、本当にあんたを愛していたとか思ってる訳じゃないんでしょ」

もしこの時、カラ松の心を一松が見ることができたなら、ガラスのハートに大きくヒビが入ったのに気付けたのかもしれない。けれども、誰だって人の心をそのまま見ることはできないし、一松の目にはカラ松がいつものように自分の言葉に言葉を返せないまま戸惑っているようにしか見えなかった。

「クソ松は付け入れられただけ。あんなドブスにいいように扱われてどうしたら愛されている、っていうんだよ」

あんなものは愛でも何でもない。それはカラ松以外の兄弟全員が同じように思っていたことだろう。
それを一松はただカラ松の前に突き付けた。トド松がカラ松にあの時忠告したことを、より辛辣にした言葉で。一松はさっさとこの茶番を終わらせたかった。くだらない希望なんか捨てていつもの調子をカラ松に取り戻して欲しくて。

「そんなくだらない希望、捨てちゃいなよ」

言葉を、確実に間違えた。
何かが割れた音が、カラ松には聞こえた。




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