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11/23(Mon):【ヤンデレ龍アリ】11

「アリババはお前達の名前を言わなかった。つまり、誰も、お前達の罪は問わないということだ」
薄暗い部屋の中には白龍の明瞭な声が響いていた。
小さな部屋だった。けれども、玉座が用意されており、その玉座に堂々と腰をおろし、眼下に跪く者達を見下ろして白龍は口元を歪めた。
後ろ手を植物の蔦で縛られ、誰もが俯いている。その表情は白龍から見えなかったが、もはや白龍にとってはそれはどうでもよかった。
「以前二度はないと言ったが、アリババがここまで心を砕いて庇ったのだからその気持ちを俺は汲まねばならん。良かったな。これでお前達は無罪放免――自由だ」
白龍が携えていた偃月刀の柄で床を叩けば、オルバ達を縛っていた拘束が自然とほどけた。
部屋の中が静まり返る。
オルバ達を一瞥する事もなく、その場所から白龍は立ち去った。
閉められる事無く解放されたままの扉は、まるでオルバ達がそこから出てゆく事を歓迎しているかのようだった。
否、実際歓迎されていたのだろう。
前回は、目に見えるような罠、しかし、それを無視する事は出来ないような罠を、言葉を掛けられた。
けれど、今回のは違う。
心底どうでも良いと言わんばかりの言葉。
自分たちがどのような目的で使われていたかを、それを完全に理解していたからこそ、自分たちが用済みになったその理由をぼんやりとだが、察してしまう。
それは、オルバ達からすれば、自分たちの命が消えるよりも重い事実だった。
彼らからすれば、世界が滅びると言われるに等しい出来事である。
そして、何よりも、辛いのは、そうなってしまった原因の大半の理由を自分たちが担っていると言うことだった。
だからこそ、オルバ達は動けない。
普通ならば、それを白龍も理解しているはずである。
けれど、それをどうでも良いと言わんばかりに放り出すと言う事は、つまりそう言う事だった。
放り出されたからと言って、逃げる選択肢を取るには、オルバ達は罪を重ねすぎていた。
あの人を、オルバ達の大切な人を白龍の元に置いて置く訳にはいかない。
けれど、助け出す為にその人の元を訪れたとしても、その瞳を見た瞬間、オルバ達は狂ってしまうのである。
八方塞がり、それに等しい状況だった。
畜生……。
誰ともなく、そんな呟きが零れる。
誰でも良い、あの人を連れ出せる奴が居れば……。
ここは白龍の城である。
場内で働くものは、その殆どが白龍の意のまま操れる人形だった。
その中で信じられるものなど、自分たちしかいなかった。
……もしかしたら。
ビルギット?
あたしなら、まだ、大丈夫かもしれない。
ビルギットの声が、嫌なほど静まり返った部屋の中で響いた。
あたしは別の部屋でずっと見てただけだから、あいつの力が掛かってないかもしれない、あの時は大丈夫だったから。
そうビルギットは握りしめた両手をわずかに震わせる。
脳裏に過ぎるのは、繰り広げられたあの狂った時間。
あの時、確かにビルギットは正気なまま、あれらを全て、見つめさせられていた。
だからこそ、分かることもある。
オルバ達があの忌々しい男に支配されるのはいつもあの人と顔を会わせた時だった。
さっきまで正気だったオルバ達が、あの人と目を会わせた瞬間狂う。
だったら、細かい理由は分からないけれど、その引き金はあの人自身なんだろう。
それに、あいつだったらそうするに違いない。
そうして、あの人を追いつめようとしているんだ。
もし、私が駄目だったら、何とかして誰かが外に助けを呼びに行こう。
もし、大丈夫だったら、命を懸けてでも、この人をここから、この狂った場所から連れ出そう。
そして、あの人が、安らかに眠れる場所に連れて行こう。
あたしたちはあの人に救われたんだ、だから、このままじゃいけないんだ。
どうやってあの人の所に行くんだ?多分あいつが居るぞ。
きっと隙が全く無いって事はないはず、だから、そこを狙うしか。
出来るのか?
その疑問にビルギットは自分を奮い立たせるように答える。
出来る出来ないじゃなくて、やらなきゃ、あたしがやらなきゃ。



アリババ殿、
部屋に戻って、ベッドの上で眠りについているアリババを白龍は眺める。
今は穏やかな表情をしているが、目尻にうっすらと涙の痕が残っていた。
眠ったからと言ってこの部屋に一人残して行ったのはミスだったかと白龍は指先でその涙を拭う。
そのまま白龍は指先に舌を這わせた。
塩辛いような、甘いような感覚が舌を刺激する。
起きるまで待つか。
無理に起こす必要もない、時間ならばあるのだから。
ふと、顔を上げて、机の上に乗っている箱が視界に入る。
そう言えば、作らせていたものが完成していたんだった、と白龍はその箱を開いた。
豪奢な細工が施されていた箱の中には、シンプルだが、最上級の素材を使って作らせたチョーカーが収まっている。
黒を主としたデザインに、中央には大粒の青玉が埋め込まれていた。
サイズぴったりに誂えたそれは、さぞやその白い肌に似合う事だろう。
これを渡して、これを身につけるか身につけな以下はアリババに任せようと白龍は思っていた。
任せると言っても、きっと身につけるだろうと言う確信が白龍にはある。
もう、白龍以外に縋る相手が居ないのだから、与えられたものはきっと受け取るだろう。
そして、アリババ自身の手で、これを身に付けさせるのだ。
これがきっとシルシになる。
白龍はするりとアリババの首をなぞる様に撫でた。
目の前に置かれた宝剣に一度視線を落として、驚くような表情でアリババは白龍を見上げた。
「これは貴方にお返しします」
あれから数日経ちアリババの体の傷は目に見えて癒えてきていた。体のどこかを動かすだけで痛みや引き攣りを感じていた体はもう普段の生活を送るぶんには支障がない。体を清められる度に白龍が体中の傷に軟膏を何度も塗ってくれたおかげもあるだろう。最初は気恥ずかしかったアリババも真摯な白龍の態度に心を許し今はされるがままになっている。
少し前までは恐怖を感じていたのに今ではこんなにも心を許してしまっている。眠る時、目が覚めた時に白龍の温もりを求める程に。
その白龍が以前アリババを捕らえた時に奪ったバルバッドの宝剣を持ちだしてアリババの前に差し出した。
どうして、と、当然アリババは疑問に思った。どうして白龍はコレを自分に差し出すのかと。
以前はもちろんアリババは奪われた金属器を取り返すことを考えていた。ここから逃げ出す為に考えないはずがなかった。でも、今はどうなのだろう。アリババは自らの金属器を前にしてもここから逃げ出すことを思いつかなかった。それどころか白龍が自分に金属器を差し出す意味を計りかねて白龍を見上げている。机の上に置かれた金属器に手を伸ばすこともせずに。


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