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11/14(Sat):【ヤンデレ龍アリ】10

ずっと暗闇の中でもがいていた。

痛かった。
苦しかった。
熱かった。
惨めだった。

熱に犯される。熱をぶつけられる。憎しみに掴まれる。憎悪に犯される。
悲鳴はどこにも届かなかった。せいぜい彼らを愉しませる音くらいにしかなっていなかった。
熱い苦しい怖い。それでも、悦楽を拾う身体はどこまで堕ちていくのだろうと絶望を誘うのだ。
暗くても何も見えなくなっても熱くて苦しくて。
自分でもどうして手を伸ばしたのかなんてわからなかった。すがるように伸ばした。
たすけて。たすけて。と。
この暗闇から、憎悪から、苦しみから。

「アリババ殿!」
名前を呼ばれて、ハッと引きあげられるような感覚を感じながらアリババは目を覚ました。酷く汗をかいていた。心なしか身体が痛い。痛くて重くて。
見上げた天井のすぐ横に心配そうにのぞきこむ白龍がアリババの視界の隅に映った。その時になって、肩を揺さぶられていたことに気付いて、アリババは意識がはっきりしないままただ呟いた。
「はく、りゅ……う?」
どうして、そんなに心配そうに顔を歪めているんだろう。
「もう大丈夫です。ここは安全ですから」
詰めた息を吐き出して、白龍がアリババの背を支えて起きあがらせた。
そしてそのまま優しく抱きしめた。
「大丈夫です」
回された腕の温もりに、柔らかい温かさにぽろりとアリババは涙を零した。縋るように回された腕を自分の手で掴む。激しくドクドクと音をたてていた心臓はゆっくりと落ち着きを取り戻していく。
大丈夫。
その言葉が胸に染み渡ってきてぽろりぽろりと涙が流れる。白龍の腕の温もりが随分と久しぶりに感じた。決してそんなに長い時間離れていたはずじゃないのに。
大丈夫。そして、安全という言葉を脳裏で咀嚼してようやくアリババは意味を理解した。そうだ。自分はまた。
震え始めた手で白龍の腕を強く掴む。カタカタと震えそうになる体を宥めるようにゆっくりと息を吐いた。息を吐いて、そして、吸って。落ち着くまでそれをアリババは無心に繰り返した。
その間、ずっと白龍はアリババを抱きしめながら大丈夫大丈夫と語りかけていた。
人の温もりを、ここまで嬉しいと思ったのは初めてかもしれない。そう思える程にアリババは自分を優しく包む温もりを求めていた。
白龍……っ
落ち着きましたか。
こくりと頷く。詰めた息を吐き出してアリババが周りを見回すといつもの部屋と違う事にようやく気付いた。
ここは…。
俺の寝室です。あの部屋に貴方を寝かせたくはなかったので。何があったか、覚えてますか。
忘れられるはずが無い。憎悪に身体をくまなく犯され浸された昼とも夜ともわからない時間を。あれはどれほどの時間続いたのだろう。
言葉を返せずアリババは白龍の袖をギュッと掴む。
……俺が戻った時にはもう誰もいませんでした。汚れ傷付いた貴方を残して……誰がこんなことを。
怒気が含まれた声音にビクリと身体が震えた。けれども、それ以上に気掛かりな事があった。
誰も…いなかった…?
はい。アリババ殿は目隠しをされていたみたいですが……相手を……覚えてますか?
覚えているか。それはもちろんアリババは覚えている。覚えている、けれども。
その名を口にしてしまえば白龍は彼らを許さないかもしれない。探し捕らえ罪に問い、刑罰を与えるだろう。
そして、白龍は言ったのだ。アリババは目隠しをされていた、と。
(つまり、白龍は俺が相手の顔を見ていない可能性を考えている)
ここでオルバ達の名前を出せばアリババが陥った状況はもう再現しないかもしれない。白龍はきっとアリババを守ろうとするだろう。最悪の場合、オルバ達の命を奪って。
幾ばくか逡巡してアリババはゆっくりと口を開いた。
見た……気がする…。でも、思い出せない……。
嘘を、ついた。
身体が震える。嘘をついたとしても身に起こった事が、記憶がアリババに襲いかかる。朦朧とした意識の中でも犯され続けるあの悪夢が。
震えるアリババを抱きしめて白龍は目尻を下げた。普通ならば自分に起きた事が信じれず未だに混乱し震えているアリババを見て、その言葉が虚言とはとても思わないだろう。けれども、白龍は知っている。オルバ達がアリババを犯したことも、そのオルバ達とアリババが会話したことも。
しかし追求する事はしない。あれ程のことをされてもまだオルバ達を庇うのなら、それはアリババに宿る崇高な優しさの体現でもあるからだ。その優しさを踏み躙っては愛しい彼の一部が死んでしまう。
無理に思い出さなくても良いんですよ。警備はすでに強化しました。ここは安全です。傷が癒えるまでゆっくりと休んでください。
まだ身体が疲れているだろうと、寝かしつけようとするとアリババは首を横に振って、白龍の服の袖も掴んだ。まるで幼子が母から離れるのを嫌がるように。
その様子にくすりと白龍は微笑んだ。
俺は、傍にいますから。
そう言ってアリババの額に軽くくちづけを落とした。


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