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11/05(Thu):【ヤンデレ龍アリ】7

その日からアリババの周囲の状況は僅かに変わった。白龍は夜ごとにアリババの元を訪ねる同衾するようになったが決して手を出す事はなかった。まるでアリババをあやすように優しく抱き締めるだけだった。
意思など関係なく犯されるものかと身構えていただけに白龍の行動の変化にアリババは戸惑っていた。白龍は決してアリババに乱暴しようとはしなかった。そして、その所作から優しさと慈しみが自分に向けられているとアリババは感じてしまうのだ。
今までされてきた事が脳裏でチラつく。そんなはずが無いと否定したい。なのに、目の前に突然差し込んできた光に手を伸ばして縋ってしまいそうになっている。白龍の真意はわからない。わからないまま向けられる優しさと温もりに心がただ翻弄される。
オルバ達に乱暴された記憶の真偽も未だにわからないままだ。時間が経つにつれて本当に夢だったんじゃないかとも考えてしまう。いくら操られていたとしてもオルバ達があんな事をするはずがないと。
時間が傷を癒やすように穏やかに繰り返される日々にアリババはオルバ達の事を忘れて白龍の事を考えるようになっていた。
どうして。どうして優しくするんだ。と。
ギシリと音がして寝台が軋む。いつものように隣に入ってきた白龍にアリババは意を決して口を開いた。
……今日も何もしないのか……。
ずっと疑問に思っていた。あれだけの事をしてきたのに白龍はアリババに行為を強いる事を突然止めた。
身を起こしてアリババは白龍に向き直った。
それは誘っているんですか?
違う。ついこの前まで散々無理矢理やってたってのにどうして突然止めたんだ?
だって…アリババ殿はずっと側に居てくれると約束してくださったじゃないですか。だから待ちます。
待つって……
貴方が俺に身体を許してくれる日をですよ。
微笑んで白龍はアリババを抱き寄せた。そして額に軽くキスを寄せる。
その日まで…俺は待ちますから。
そ、その日来ないかもしんねぇぞ!
上擦った声が上がった。慌てて身を離してアリババは顔を背けた。熱を帯びた顔を白龍に見られたくなかった。
必ず振り向かせてみせますから。
自信に満ちた声にアリババは逃げるように背を向けて布団を頭から被った。

え?…出掛ける…?
白龍が遠出するという連絡はそれから数日経った夜に知らされた。寝間着に着替えながら白龍が切り出してきた。
はい。明日から数日間ここを留守にします。食事等は女中に用意させます。そして、何かあったら宮殿内の者にお伝えください。
……そうなのか……どこに行くんだ?
国内の占領国の調停に。国の体制を変えるにあたって諸国を巡って話し合ってきます。
……そうか。
知らず沈んだ表情をしたアリババに白龍はくすりと笑った。
そんな顔をしなくともすぐに戻ってきますよ。
そ、そんなんじゃねえよっ!さっさと行って来いよ!
決して白龍がいなくなることが寂しいとかそんな感情からじゃない。アリババは自分の沈んだ声に戸惑いながら顔を赤くしていた。

いつもの通り、抱きしめられて眠りにつく。
ぬくもりに包まれながら、自分の変化を確かに感じ取って、そっとアリババは目を閉じた。
慣れ切ってしまいそうになるぬくもり。
その優しさに、心の底から縋って依存してしまいそうだった。
何が、それを押し留めてくれているのかどうか分からない。
このままではダメだ、そう思ってても抗う気力は既に殆どなかった。
感じていた恐怖感は随分と薄れている、その代わり、胸の内の陽だまりのような感情は際限なく膨らんでいる。
中途半端なままこのままずっといるのだろうか。
そんな疑問が頭の中を過ぎる。
アリババ殿。
ん?
おやすみなさい、愛してますよ。
そう、優しげに囁かれて、思わず目を見開く。
きっと顔も赤くなってるだろう、寝るために部屋が暗くなっていて良かった。
そうでなければ、きっと気が付かれていた。
いや、気が付かれてるかもしれない。
恥ずかしさで体がぽかぽかする、あぁどうしてそう臆面もなくそんな事を言ってのけるのだろうか、こいつは。
出会った時のあの初々しい感じはどこに行ったんだろう。
けれど、今のこいつはあまりにも優しかった、全てを忘れて、このまま穏やかに過ごす事を望んでしまいそうだった。
じわりじわりと追い詰められる感覚がするような気がする。
でも、どうせ、どう追い詰められようが、白龍から離れる事はできない。
だったら、落ちてしまえばきっと楽になるだろう。
でも、どうして、駄目だと、このままではいけないと思ってしまうんだろうか。

目が覚めると、妙な違和感に襲われた。
何かが足りない、欠けているその感覚に首を傾げながら、上半身を起こす。
ってアレ?
「白龍?」
ぬくもりが足りない、この身を包んでくれている人のぬくもりが足りない。
いつもならば、自分が起きていても、俺が起きるまで待っていたのに、どうして。
とまで考えて、昨日の会話を思い出す。
そう言えば、出掛けると言っていた、もう行ってしまったのだろうか。
起こしてくれれば良いのに、そしたら見送りぐらいは出来たのに。
数日間と言っていたけれど、どれ位かかるんだろうか、何時ごろ戻ってくるんだろうか。
……早く戻って来ないだろうか。
胸の内にぽっかりと穴が開いたような感覚がした。
そんな自分自身にアリババは呆れて少しだけ笑ってしまう。
今の自分がどう言う立場か、どう言う感情を抱いているか、嫌でも思い知らされた。
取り敢えず、朝ごはんをどうにかしないといけないか。
確か、食事は女中がって言ってたけど、ここまで持ってきてくれるのだろうか分からない。
とにかく、外に出てみようか。
そう思った時だった。
ゆっくりと重い扉が、音を立てて開かれてゆく。
その響き渡る音が、どうしても、何故か恐ろしい音に聞こえて思わず体が跳ねた。
そうして、現れたその姿を視界に収めて、悲鳴を上げそうになったのを寸での所で堪える。
ガタガタとみっともなく、身体が勝手に震え出す。
その姿がは、俯いていて、表情を伺う事は出来ない、出来ないが、誰かと言う事位はしっかりと分かった。
どうして、
ふとそんな言葉が勝手に口から零れ落ちる。
どうして、彼らがここに居るのか理解出来なかった。
無言のまま、彼らは部屋に入ってくると、そのまま扉が閉じられる。
それを呆然として見る事しか、アリババは出来なかった。
どうしてと言う言葉が頭の内を支配する。
オルバ、みんな、どうして。
どうして、ここにお前たちが居るんだ。
アリババさん。
オルバ達の顔が上げられる。そこには見慣れた笑みがあった。口元は孤を描き、一見すれば人懐っこい感じで危機感を感じる必要性はないと思われた。けれども、口元とは別に視線は感情を押し殺したように冷たい色をしていた。
一歩オルバ達が前に進む。その分だけアリババは圧されて後ずさった。言い知れない恐怖がアリババを縛っていた。朝の日差しが窓から差し込んでいるにも関わらず、部屋の暗さが増したような錯覚。
どうして。ってまた聞くんですか?何度も答えてあげたのに。
「また」とその言葉にゾクリとアリババの背が震える、指先が震えを増す。あの記憶は、やはり実際に起きた事だった。夢などではなかった。
慌てて部屋中に視線を走らせた。
逃げないと。ここから逃げないと。
出入口はオルバ達が入ってきた扉一つだ。当然その前にはオルバ達が立っていて簡単には抜けれそうにない。部屋の中にあるもう一つの扉は風呂場に通じているもの。けれども、その前には既にアリババの行動を見越したようにブロルが立ち塞がっている。
捕まったらダメだ。繰り返される。
アリババが背にしている部屋の窓は大人が通り抜けられるほど大きくはなかった。元々軟禁している部屋なのだから当然といえば当然だった。それが今はとても恨めしい。
繰り返される。あの悪夢が。痛みにも快楽にも終わりの見えない陵辱が。
部屋の壁に背中が当たる。もう後ろには下がれない。滲みでた冷や汗が背を滴る。今度こそ壊されてしまう。身体だけじゃなく、心まで。
く、来るな…っ!
アリババの怯え具合に気を良くしたオルバは口元の笑みを深くした。
へぇ?逃げるんだ自分の罪から。それともなに?まさか今更マドーラの命を奪ったのは自分じゃないとか言わないですよね?
それ、は……。
言い淀んでアリババ言葉を返せずにオルバ達を見ていた。
確かにマドーラに直接手を下したのは白龍だった。けれども白龍が直接手を下さなくともあの大聖母は処刑されていただろう。その点では、アリババもまた大聖母を殺す一端を担っていた。たとえ直接手を下さずとも。
真っ直ぐにアリババに向けられる憎悪。育て親である大聖母を失った哀しみ、怒り。本来ならたとえ精神支配されなくてもアリババにも向けられるものだったとしたら?今まで普通に笑っていた彼らがずっと胸の内に抱えていた憎悪や怒りだとしたら?
アリババにはわからなくなった。本当に彼らが自分を陵辱する事を望んでないのか。もしかしたら、怒りを晴らす事を望んだから戻ってきたのではないかと。
俺達は罰を与える。
あんたが生きている限り何度でも。罪は消えはしない。そうでしょう?
お前がマドーラを殺したんだ。俺達の育ての親を!
憎悪の叫びを向けられる度にアリババの心が抉られていく。真実がわからなくなる。信じたかった人が信じられなくなっていく。助けて欲しいと、心が悲鳴をあげる。
……ひとつだけ、答えてくれないか?
震える体でアリババが問い掛けると、オルバ達は足を止めた。
お前達は…望んでここに戻ってきたのか?
僅かな沈黙。一瞬目を丸くしたオルバがその問いを肯定するように笑みを浮かべる。次の瞬間伸びてきた手に腕や頭を掴まれながら、アリババは静かに涙を流した。


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