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11/03(Tue):【ヤンデレ龍アリ】6

朝焼けの光に促されるように重い瞼をゆっくりと開いて窓の隙間から溢れる光に目を細めた。
………朝…?
ゆっくりと瞬きを繰り返しながらアリババはぼんやりとした意識で窓を眺めていた。身体は未だ眠りを欲するように開きかけた瞼を閉じようと促してくる。
疲れている。もっと眠っていたい。
その欲求のままに窓から差し込む光から寝がえりをうとうとして、柔らかい感触に阻まれた。
意識がゆっくりと覚醒していく。
気付けば寝台にかかる布団とは別に柔らかく暖かい温もりに包まれていた。首の下に回された腕と反対側に抱き寄せるように回された腕が、木質の硬質な感触を返してきていることから振り返らなくても自分を抱きしめているのが誰なのか、すぐにアリババにはわかった。
……………あれ?
自分の内側で湧き出た感情にアリババは胸中で首をかしげた。相手は今まで散々自分に無体を働いて、この部屋に閉じ込めた張本人だ。それなのに今アリババはこの場所にいたのが『白龍』であったことに安堵を感じていた。
……なんで、俺………
敵愾心を抱いていたはずだった。その相手に対して抱く筈が無い感情に戸惑いを感じる。ベリアルに意識を操作されたのだろうか。けれども、白龍はここにアリババを閉じ込めた時に一番最初にこう言ったのだ。アリババにベリアルを使うつもりはない、と。
その言葉を完全に信じている訳ではないが、必要がない間は白龍があえてベリアルを使うとも考えにくかった。そうなると自分が白龍に対して抱いた感情に説明がつかなくてアリババは困惑する。
………ん。
アリババが身じろぐその振動で起きたのかアリババが
振り返ると、寝ぼけまなこの白龍と目があった。
「おはようございます、アリババ殿」
にっこりと微笑まれて、どう言葉を返せばいいかわからずにアリババはその場で固まった。

食事を用意してくる、そう言って部屋を出ていった白龍をぼんやりとアリババは見送って、自分の服を見下ろしていた。着替えた覚えのない煌の服。重い身体。
疲労感の抜けきらない頭でゆっくりと記憶を手繰り寄せる。その中にどうして白龍を見て安堵したのか、その理由もありそうだった。
未だにふらつく体でゆっくりと起きあがる。自分がいつも着ている服はどうしたかと、なんとなく部屋を探す。
記憶が混乱していた。
白龍と昨晩身を重ねた記憶はない。当然今の寝巻に着替えた記憶もない。けれども、身体に残るこの重さは倦怠感は情事によるものと同じだった。
「…………どうして」
ぽつりとアリババが呟く。今の自分の状態に対しての素直な疑問からの言葉だった。
ただ、自分が発した言葉にアリババは服を探している手を止めた。その手が指先から震え始める。
どうして。どうして戻って来たんだ。
何度も口にした言葉、何度も疑問に思い問いかけた言葉。
あ、ああ…あ゛あ゛あ゛……!
喉奥からほとばしったのは押し殺した悲鳴のようだった。震え始めた自分の体を抱き締めてアリババはその場に崩れ落ちた。
思い出したというには生温かった。体が覚えているという方が正しい。
恐る恐るアリババは自分の体に手を這わせて確かめていた。歪に膨らんでいた腹は普段と変わらない大きさで何事もなかったように呼吸を繰り返して上下している。
あんなにおぞましい事が本当にあったのか?
痕跡はどこにもないようにアリババには思えた。身体に残る倦怠感、それ以外は何も。
すべてが酷い悪夢ならどんなにいいか。
今ならわかる。どうして隣りにいたのが白龍で安心したのか。そこにオルバ達がいないことに俺は安心したんだ…。
音を立てて扉が開いた。その音に過敏に反応して背が跳ねる。アリババは振り向くこともできずに地面に座り込んでいた。
朝食をお持ちしま……どうしたんですか、アリババ殿!?
はく、りゅう……。
(ああ、まただ)
かけられた言葉にようやく体が動いた。振り向けた。
心配するように俺を覗き込む白龍に対して俺はまたしても安堵を感じていた。

かちゃりかちゃりと食事を口に運ぶ音が響く。震えていた体も用意された朝食を食べている間に段々と収まってきた。お腹も空いていたのだろう。一度口にしてしまえば、匙を動かす手は止まらなかった。
お口にあいましたか。
頬張っていたためアリババは無言で頷く。
良かった。久しぶりに腕を振るったかいがありました。
はにかんだ笑顔に見惚れてアリババはしばらく考えていた。白龍のそんな顔を見るのは久しぶりだった。
あの、さ……。
はい?
オルバ達は…ちゃんと解放した、んだよな…?
ええ。彼らが去って行くのをアリババ殿も見送ったでしょう。それがどうかしましたか?
詰めた息を吐き出して白龍の顔をまじまじと眺める。特に表情が変わった様子はない。
問いただせばいい。オルバ達を操って自分を襲わせていないかと。けれども、痕跡は何も残されていないのだ。残っているのはアリババの記憶だけ。
言葉を返せずにアリババが黙り視線を落として思考を巡らせているのを白龍は口元の笑みを絶やさないままじっと見ていた。
「ですが」
白龍の言葉にアリババが顔を上げる。
俺は彼らにこうも警告しました。見逃すのは一度だけだと。ですからもし彼らが戻ってくる事があるとすれば…ベリアルの力が自動的に発動する事もありえるかもしれません。
……なっ!
しかし彼らは解放された。ここに来る事はもう無い。問題はないでしょう。

そんな事より。
そう言って白龍はそっと、こちらに手を伸ばして来た。
ぼんやりと伸びてくる手を見つめて、頬に触れられる。
料理が、冷めてしまいますよ?
せっかく貴方のために作ったのにと少しだけ困ったように目尻を下げられて、慌てて食事を再開する。
白龍のその懐かしいような表情に、胸が締め付けらえるような感覚にアリババは少しだけ悲し気な表情を浮かべた。
それに気が付いたのか、白龍は慰めるように目尻を撫でる。
へにゃりと少し困ったように微笑まれて、寄り強くアリババの胸は締め付けられるような感覚がした。
けれど、それを悟られないように、アリババは料理に視線を落として。黙々と食べ進める。
その表情たちは、あまりにも昔を思い出させるような表情だった。
多分、白龍との関係性で言えばあの時が、きっと一番円満な時期だっただろうと、アリババ自身は思っている。
あの時は、まだ何も思うこと無く笑い合えていた。
いや、そう思ってたのは俺だけかもしれないけれど、それでも、今とは全然違っていた。
白龍、
なんですか、アリババ殿?
穏やかに微笑まれて、出そうになった言葉が引っ込んでしまう。
それどころか、ぼろぼろとひとりでに涙が零れ落ちてきた。
アリババ殿!?
白龍の少し戸惑ったような声が聞こえた。
その声に、アリババは返事を返す余裕など無い。
だって、あまりにも昔と変わらない笑顔だったのだ。
今までされてきた事の記憶がなくなった訳ではない、一つ一つ嫌と言うほど覚えている。
この身体に刻み付けられている。
けれど、白龍の姿を見て安堵して、変わらない笑顔を見て縋りつきそうになってしまった。
どうして、
ぼそりとまた、その言葉がアリババの口からこぼれ落ちる。
アリババには、何もかも分からなかった。
否、分かりたくなかったのである。
分かってしまえば、取り返しの付かない事になってしまう事になってしまう気がした。
今、胸の内にある気持ちに名前を付けてはいけないと、そう思った。
泣かないで下さいアリババ殿。
そう言って、白龍はアリババの顔に両手で包むように触れる。
白龍の哀しいと言わんばかりの表情に、余計にボロボロとアリババの瞳から涙が零れ落ちた。
アリババ殿、アリババ殿?
少しだけ動揺したような声。
こちらを心底心配しているような声は、まるで毒のようにアリババの胸の内を締め付ける。
耐えきれなくなって、ぐしゃりと胸の所の辺りの服を掴んだ。
……痛いんだ。
痛くて痛くて堪らなかった。
苦しい、悲しい、辛い、怖いそんな感情がごちゃまぜになって胸の内が悲鳴を上げる。
いっそのこと全て忘れる事が出来ればいいのに。
アリババ殿……抱きしめても良いですか?
いつの間にか下がって来た目線を上に上げさせられて、そして視界に映ったその真摯な表情に全てを覚えていながらも、頷いてしまう。
どうして。
ぬくもりに包まれ、それでも涙を流しながら、アリババは自分に問いかける。
苦しいはずなのに、悲しいはずなのに、辛いはずなのに、怖いはずなのに胸の内から湧いて来る、この柔らかな陽だまりのような感情は、何なのだろうか。


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