蒸し暑い夜、張り付く髪の毛の気持ち悪さで目が覚めた。暗闇の中、手さぐりで携帯をひっつかみ時間をみれば、午前四時。こんな時間に目が覚めるなんて、ついてない。もう一度寝ようにもこの暑さじゃなあ。 仕方なく怠い体を起こしてベランダへ出る。じんわり汗をかいた体が夜風で冷まされて気持ちいい。ふと、隣の家の明かりが目に入った。
「あれ、」
こんな夜中にお隣さんは一体何をしているんだろう。私はすぐに携帯の電話帳を開いて、発信ボタンを押した。ワンコール。
「もしもし、夏樹?」 「…お前今何時だと思ってんだよ」
少し掠れた色っぽい、そして呆れた声が電話越しに聞こえる。明かりのついた部屋の窓が開かれて、いつもに増してボサボサ頭の夏樹が顔を出して、二階のベランダにいる私を見上げた。
「へへ、やっぱり起きてた」 「……起きてたけど」 「寝苦しくてベランダ出たら丁度夏樹の部屋に電気ついててさ」 「それで俺が寝てたらどうすんだよ」 「あ、考えてなかった」
言うと、電話越しに小さな溜め息がひとつ。
「名前、風邪ひくぞ。中入れよ」 「うん、そうだね…私夏樹のそうゆう所、すき」 「っ……なんだよ急に」
気付けばポロリと口からこぼれていた。もともと思ったことはすぐに言える性格だけど、夏樹に対してはもっと素直に何でも言えてしまうのだ。いいなって思ったときにはもうすでに言葉となって声に出してしまう。 そんなだから、好きだとかキスしたいだとか、そういうことはいつも私からだ。不満じゃないけれど、不安になるときだってある。時々、不安の波がざあっと一気に押し寄せて、それは今日もまた、急に襲ってきたのだった。
「照れてる?かわいー」 「……お前ほんと寝ろよ」 「やだ」 「言うこと聞けって」 「だって幸せじゃない、こんな時間に夏樹の声聞けて。切るのもったいない」 「、それは、俺もだけど」
その言葉だけで目が覚めてラッキーだったなと思ったけれど、
「なあ名前」 「ん?」 「俺、いつもあんまり言えねえけど、絶対お前のこと1番好きな自信あるから。不安にさせてたらごめん」 「……実はね、不安だったら電話した」 「…うん」 「ちゃんと好き?」 「好きだ」 「今の、ほんとにうれしい」 「…うん」 「ありがと、夏樹」
午前4時の幸福感はやわらかく私を包み込む。
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