「名前、いいか?」
「ま、待って!まだ、心の準備が…」
「こういうのは一気にやっちまった方がいいぞ?」
「いや本当怖いんだって」
「ほら、大丈夫だ。うまくやるから」

氷を耳に当てたまま、先ほどから中々決心がつかない。エレンくんは大丈夫だって言うけど、絶対痛いって普通に考えて!というか君ピアス開けてないから痛みなんか知らないでしょ!
そう、私は今人生で初めてピアスを開けようとしている。というのも、一週間前に、なんとエレンくんがピアスをプレゼントしてくれたのだ。町に出かけたついでに見つけて、名前に似合いそうだったら。真っ赤な顔で差し出されたそれは、かわいらしい色とりどりの小さなリボンが連なったデザイン。エレンくんの中の私のイメージってこんなかわいらしいイメージなんだろうか、よく分からなかったけれど、とにかく嬉しかった私はすぐにピアッサーを買いに走ったのだった。
そして、今に至るのである。どうせ開けるなら好きなエレンくんにお願いしたい。そう思ってドキドキしながら頼んだのだけれど、エレンくんは普通にあっさり承諾してくれて拍子抜けしてしまった。なんだろう、男の子は誰にピアスを開けてもらうとか大事にしないのかな、ああ、ただエレンくんが鈍感なだけか。

そこまで考えてから耳に触れられる感覚で意識が戻る。

「わっ、え、もうやるの!」
「だってよ、ちんたらやってても仕方ねえだろ」
「そ、そうは言われましても…」
「そこまで緊張するなよ、こっちまで緊張してくるだろ」
「……はい、じゃあお願いします…」

呆れられたくないし、そろそろ覚悟を決めないと!エレンくんがやってくれるなら大丈夫なはず!

「じゃあ、開けるぞ」
「う、うん」

当てていた氷を下ろして、かわりに金属をあてがわれる。ぎゅっと目を瞑って痛みがいつ来てもいいように準備する。

ぱちん、小気味の良い音と共にじんわり痛みが走った。

え、嘘、早!!!もしかしてもう開いたの、

「これ開いてるの…?」
「大丈夫、ちゃんと開いてる。それより痛くなかったか?」
「おかげさまで…うわ、私、ピアス開けてしまった…」

じわじわと実感が湧いてくる。何というか、少しだけ大人になった気分だ。

「本当ありがとうエレンくん!エレンくんに頼んで良かったよ」
「俺も、良かったと思う」
「え、なんで?」
「……いいだろ、なんでも」
「え、気になるんだけど」
「……だってよ、名前、嬉しそうだから。俺自身もよくわかんねえけど…お前が笑ってる方がいい」
「っう、うん」

うわ、今の言葉、本当にうれしいんだけど…!生きてて良かった…!エレンくんのこういう所すごくいいなって思う。改めて認識すると恥ずかしいけど、私、本当エレンくんのこと好きだな…。エレンくんに好きになってもらえるようにがんばらないと、そう決意を新たにした夜だった。









ピアスを開けて一ヶ月程たって、やっとホールが安定してきた。机の奧を探って小さな紙袋を取り出す。紙袋の中身はもちろん、エレンくんからもらったリボンのピアスだ。しゃらりと手のひらに出してはまた頬が緩む。一ヶ月間我慢したけれど、やっと付けられる。鏡を見ながらそっと耳に付けると、かわいい色とりどりのリボンがよく目立った。幸せな気持ちに浸りながらそれを眺める。好きな人に開けてもらったホールに、好きな人から貰ったピアスを付けて。エレンくんに少し近付けた気がして心が弾んだ。このピアスを付けてるの、エレンくんが見つけたらどんな反応するかな…。耳朶にぶら下がったリボンがゆらゆら揺れた。



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