「そういえば…」
「んぁ?」
「ジュダルくんって、何をしてる人なんですか?」
急なわたしの問いに、ジュダルくんはきょとんとした表情を浮かべました。片方の手はわたしの手を引いたまま、もう片方の手で頭を掻いて、あー…って曖昧な返答。すたすたと歩いていた足は止まってしまい、何かを考えるようにぼんやり上の方を見ています。
(わ、わたし何かマズいことを聞いてしまったんでしょうか…)
「そうだなー…煌帝国の神官、って言ってわかるか?」
ジュダルくんの言葉に、今度はわたしがきょとんとする番でした。神官…聞いたことないわけじゃない、けど全然馴染みのない言葉です。
「偉い人…ってことですか?」
「んー、まあそんなカンジだな。俺はマギだから…つってもわかんねーか。」
「はあ…」
ジュダルくんはわたしの質問にちゃんと答えてくれてるのに、やっぱりイマイチ理解できません。ジェネレーションギャップ…いや、年はそんなに変わらないように見えますけど。
「まあわかりやすく言うと、俺すっげー魔導士なんだよ。」
「…魔導士?」
「そ、ルフを操って魔法を扱える、選ばれし存在。」
「魔法って…ジュダルくん、わたしのことバカにしてます?」
ここが異世界だっていうのは確かに理解しましたし、面白いものを見せてくれるともジュダルくんは言ってました。
だけどでも、いきなり"俺魔法使いなんだぜー"的なことを言われても、そんなに簡単に信用できるはずありません。
(異世界ってだけでも、だいぶ非現実的ではありますけど)
「んだよ、俺の言うこと信用できねーのか?」
それはそうでしょう、今日会ったばかりのよく知らない人に、いきなりそんなこと言われても。
(よく知ってる人が言ったとしても、きっと同じことでしょうけど)
「じゃー手始めに、いいモン見せてやろーか。」
「へ?」
「そこに絨毯あんだろ?それに乗れよ、お前乗せて飛んでやる。」
そう言ってジュダルくんが示す目の前には、赤い絨毯。高級そうではありますけど、特に何も変わったところはなく、
「飛ぶなんてそんな、」
あるわけない、って言おうとしたけども、ジュダルくんがいーから乗れよって促してきたので、渋々ながらも目の前にあった赤い絨毯の上に乗ってみました。
ジュダルくんも同様にひょいっと乗り込んで、落ちんなよーって言いながら笑っています。
そんな本当に飛ぶわけじゃあるまいし、なんて考えていると、ゆっくりゆっくり、地面から絨毯が遠退いていきます。
(え、ちょっと、これまさか)
「きっ…やああぁぁぁっ!」
わたしとジュダルくんを乗せた絨毯が、ふわりと空中に浮かびました。っていうかこんなの…ディ○ニーの世界じゃないんですから!
「なんだよ、ちょっと浮いただけでビビんなって。」
「だ、だってこれ、飛んでっ、きゃああああっ!」
どんどん高いところまで上がって、上がって、景色がミニチュアのおもちゃみたいになるくらいの高さまで上がってきました。
最初こそ絨毯が飛んでることと信じられない高さに驚いていたけれど、
「う…わぁ…!」
大きな建物から小さな建物まであり、地面はほぼ一面土。コンクリートまみれだったわたしの知っている景色とは全然違います。思わず感嘆の声が出てしまいました。
「すごいっ、きれいですジュダルくん!」
「だろ?お前の世界にはこーゆーのねーの?」
「絨毯で空を飛ぶなんて、わたしの世界ではおとぎ話ですよ!」
「ふーん…不便な世界だな。」
ひらひらと絨毯の端の部分が風にはためいていて、わたしとジュダルくんはそっと空中を漂っている。不思議、だけどなんて素敵なんでしょう。
「まず一つ、いいモン見れただろ?」
「はいっ、すごいです、本当に…」
きっとあの時事故に遭わなければ、ジュダルくんの上に落ちてこなければ、こんな素敵な景色も知らないままだったでしょう。
「ありがとうございます、ジュダルくん!」
「またいつでも見せてやるよ。」
いつでも―――――そんな言葉が今のわたしには嬉しくも悲しくもありました。
あと何回この景色を見られるでしょう、あとどれだけわたしは素敵なものに出会えるでしょう。
まだ5日間は始まったばかりなのに、もう終わることを考えてしまっている自分に、少しだけ悲しくなりました。
かなしみはどこへ