「んで、お前やりたいこととかねーの?」




一通りぶつぶつ言い終わったであろうジュダルくんが、急にこちらを向いて話しかけてきました。
(長いこと彼が一人で喋っていたので、わたしもだいぶ、気持ちに整理がつきましたけど…)




「やりたいこと…ですか?」




「どーせあと5日で死ぬんだろ?だったらやりてーことやってから死んだ方がよくね?」




「…そう、ですねぇ…」




わたしが死ぬことを気にかけて、ジュダルくんがそう提案してくれたのはありがたいです、けれど、わたしには特に何も浮かびませんでした。




普段から大した目標やら夢もなくぼんやり暮らしてきただけだったし、これといってやりたいことも欲しいものもなかった気がしますし。
(それがいいことなのか悪いことなのかは、わかりませんけど)




「特には…ないです、ね。」




「はぁ?お前欲のねーやつだなー。」




「…そうでしょうか、」




ジュダルくんは呆れたような表情をして、鋭くて赤い目をぎらぎらと光らせます。




「死ぬ直前なんだからよ、もっとこう…東の国ぜーんぶ欲しい!とかねーの?」




「…それ、もしかしてジュダルくんの願望ですか?」




そうだとしたらかなり危ないです、こともあろうに、く、国って…。
(規模が大きすぎますよジュダルくん!)




「…普通でいいです、」




「あ?」




「どうせ何を手に入れても、5日後には死んでしまうんですし…普段通りに生活して、そっと逝ければ満足です。」




まあこの慣れ親しんだ土地ではない場所で普段通りと言っても、あまり実感も説得力もない気がしますけど。




それでも、平凡に生きてきたわたしには、それが最高の贅沢に思えるのです。今さら5日後に死ぬからといって、特別な何かが必要だとは思えないのです。
(普通に暮らして、普通に死ねれば、それで)




「…つまんねー、」




「え?」




「つまんねーだろ、それじゃ。」




ジュダルくんが強い瞳で、射抜くように鋭くわたしを見つめてきました。赤い目がぎらりと光って、その中にわたしが映っています。




「世界にはおもしれーモンも楽しいこともたっくさんあんだぜ?お前それを何一つ知らずに死ぬのかよ?」




「…それは…」




面白いもの、楽しいこと、世界にはたくさんある。そんなことわかってます。けど、5日後には死ぬってわかってるわたしには、それを見に行く時間も労力もないんですよ。




「知りたいとは、思いますよ。できることなら、いろんなものを見てみたいです。でも今さら、そんなこと…」




「…見せてやるよ、」




「え…?」




「俺が連れてってやる。おもしれーモンも見せてやるし、うまいモンも食わせてやるよ。」




「ジュダルくん…」




ジュダルくんの瞳には迷いがなくて、ただ彼に映るわたしばかりが戸惑っていてひどく滑稽でした。




「死んでから後悔したっておせーんだぜ。生きてるうちにできること、ぜーんぶやってから死ねよ。」




すくっと立ち上がったジュダルくんは、わたしに向かって手を差し伸べてくれました。大きな手のひら、わたしの手くらい包んで、簡単に引っ張っていってくれそうな。




「俺が全部教えてやる。行こうぜ、なまえ!」




たとえあと5日しか生きられないとしても、変化なんて望んでいなかったし、贅沢言うつもりもありませんでした。




だけど、彼の思いに突き動かされたわたしは、その手を強く握って立ち上がったのです。




「…はいっ!」




この人なら、わたしにいろんなことを教えてくれる気がした。楽しいことも美味しいものも、わたしが知らずに生きてきたことを、たくさん。




出会ったばかりのジュダルくんに対して、どうしてそんなことを思ったのかはわからないけれど、この知らない世界で、わたしは彼についていくことを決めたのです。彼のまっすぐな瞳の先に、きらきらした未来が見えた気がしました。




―――――わたしが死ぬまでの、ジュダルくんとの奇妙な5日間は、こうして始まりを告げたのです。











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