『どうだった、最後の5日間は。』




未だ意識がふわふわする中、わたしはあの死神さんの声を聞きました。遠くから聞こえるようにも、すぐ近くで聞こえるようにも思えて、とっても不思議です。




「…幸せでした、とても。」




『…そうか…』




目を閉じれば、まだ脳裏には、ジュダルくんの笑った顔や困った顔が浮かぶ。ああ、好きだなあ、なんて思うと、涙がぽろっとこぼれたのがわかりました。




「…ありがとうございます、わたしを…あの世界に送ってくれて。」




『…何故、礼を言う?貴様に礼を言われるようなことをした覚えはない。』




「それでも…わたしは、嬉しかったから。あの世界に行けて、ジュダルくんに会えて。たった5日なのに、今まで生きてきた何年間にも敵わないほど楽しくて、幸せだったんです。」




たくさん笑った、同じくらいたくさん泣いた、でもそれが幸せだった。ジュダルくんに出会えて、世界がきらきらした素敵なものに思えた。今までただ平凡に生きてきたわたしが、初めて世界を好きだと思えたんです。




「…でも、本当は…」




胸が熱くなって、悲しみが込み上げてくる。それは涙になって、次から次へと溢れて流れて、わたしの頬を濡らしていきました。




「…もっと…ジュダルくんと一緒に、いたかった…。」




これからジュダルくんの身に起こる、嬉しいことや悲しいこと、ジュダルくんが出会うきれいなものや、素敵なもの。わたしも一緒に見て、聞いて、感じたかった。




『…なまえ、』




ふ、と急に体が軽くなった、気がした。これが死ぬって感覚なんでしょうか、初めてだからよくわかりません。
(まあ恐らく、二度目なんてないんでしょうけど)




『…行け、』




「え?」




『光の射す方へ、歩いていけ。まっすぐにだ、絶対に振り向くな。』




そっと目を開けると、真っ白な空間に、一筋の光が見える。こんな中で光と白の区別がつくなんて、いよいよわたしは死へ向かうんですね。




「…いろいろ、ありがとうございました。」




姿が見えない、声だけの存在に頭を下げる。もう心に、迷いはありませんでした。




「…あなたは、死神さんなんかじゃなくて―――――…」




神様、だったんですね。




退屈に死んでいくはずだったわたしに、素敵なおくりものをくれた、神様。




「…さようなら、」




優しい神様、どうか最後に一つだけ、お願いです。




わたしの大好きな人―――――ジュダルくんが、これからも幸せでありますように。




―――――…




「なまえ!なまえ!」




頭がずきずき痛む、体は重たくて、息苦しい。死ってこんなにも苦しいものなのか―――――…




「……………………?」




重い瞼をゆっくり開くと、真っ白な天井が視界に映る。




「…こ、こは…?」




「なまえ!」




叫ぶように呼ばれたわたしの名前、声のする方に無理やり顔を向けると、そこにいたのは、




「…お…かあ、さん…?」




わたしの、お母さんだった。なんで、どうして、お母さんが?わたしは死んだんじゃ、




「ああよかった!このまま目覚めないかと思って、心配したのよ…!」




「……………………」




ぎゅ、と手を握られても、今のこの状況が現実味を帯びることはなかった。だってわたし、死んだはず。5日間ジュダルくんと過ごして、それでわたしはおしまいだったはず。




「…かみ、さま…?」




思い当たるのは、神様の存在だった。あの人は確か、光に向かって歩けと言った。もしその光が、この世界に帰ってくるための道しるべだったのだとしたら、




「…わたし…は、」




わたしはまた、あの人に生かされたのだ。何を思ってこうしたかは知らないけれど、わたしは助かって、今生きている。




「―――――っ…」




それなのにどうして、こんなにも悲しいんだろうか。わたしは生きている、死ぬはずだったのに助かった、それで十分じゃないか。




…わかってる、本当は。どうしてか、なんてそんなの。




せっかく生きているのに、世界に色がないから。ずっとわたしが生きてきた、惹かれるものなどない、退屈な世界。わたしにたくさん素敵なことを教えてくれた、彼がいない。




「ジュダル、くん…」




再び目を閉じると、ジュダルくんがくれた甘い果実の匂いが、あたりに漂った気がした。











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