「…どうしたんだよ、なまえ。」
「…はい?」
「昨日から元気ねーじゃん、…俺といてもつまんねー?」
「いえ…そんなことはないんですけど…」
今日はジュダルくんおすすめの絶景スポットに、いつもの絨毯に乗ってやって来ました。…だけど、昨日自分の想いを自覚してしまったわたしは、素直に景色やら何やらを楽しめません。
今日はもう4日目、明後日にはわたしはいなくなる。明日が終われば、ジュダルくんとはさよなら。
「(…離れたくない…)」
今まで生きるということに対して、そんなに執着したことはありませんでした。…まあ、わたしが元々いた世界は平和だったから、大半の人がそうなのでしょうけど。
(ジュダルくんに聞いたら、この世界には戦争やら何やらがあるそうです)
それなのに、死にたくない、ここにいたい、帰りたくない、って思ってしまうなんて。元々この世界の人間じゃないくせに、なんて烏滸がましいのでしょう。
「…ジュダルくん、」
「あ?」
「…ごめんなさい…」
思えばこの4日間、迷惑をかけっぱなしだった気がします。急に自分の上に降ってきた(らしい)わけのわからない人間を拾ってくれて、いろんなところに連れていってくれて、たくさん素敵なことを教えてくれました。そんなことをしてもジュダルくんには、何のメリットもなかったでしょうに。
「…なんで謝んだよ、」
きゅっと眉間にシワを寄せて、睨むようにわたしを見るジュダルくん。険しい顔や怪訝そうな顔は見たことあったけど、こんな風に怒った顔は初めてです。
(また新しいジュダルくんを知ってしまいました)
「…わたし…ジュダルくんに、いろいろしてもらって…嬉しくて…」
言いたいことはたくさん、たくさんあるはずなのに、伝えたいこともあるのに、うまく言葉になりません。
本当は、ごめんなさいじゃなくて、ありがとうって言いたかったんです。だけど、それを言うともう何もかも、終わってしまうような、そんな気がして、
「なのにわたしは…ジュダルくんに、何もしてあげられてません…。」
「…なんだよ、そんなことか。」
はあっと長いため息が聞こえたかと思うと、ほっぺをぐにっと掴まれて、無理やりに上を向かされてしまいました。
(い、痛いです)
「バッカだなあ、お前。」
「む、ぅ…?」
「別に何かしてほしくてお前といるわけじゃねーんだよ、そんくらいわかれ。」
「ぅ、」
「ったく、明日で終わりだっつーのに、余計なこと考えてんじゃねーよ。」
ぱっと手を離されて、その手で頭をくしゃくしゃに撫でられました。悩んだり泣いたりしてる時は、いつもそうしてくれるジュダルくん。優しい、ひと。わたしは彼と長い付き合いなわけでも、ずっと彼と一緒にいられるわけでもないのに。
「ジュダルくん…」
「ん?」
「わたし、ジュダルくんに会えてよかったです。」
「…なんだよ急に…」
ぽろ、涙が一粒だけ零れ落ちました。でも、もう泣くのはやめです。ジュダルくんの言う通り、明日が最後なんですから、笑っていなきゃ。
「…あと一日ですけど、よろしくお願いしますね。」
現実は変わらない、起こってしまったことは戻らない、今回の件でわたしは痛いほどにそれを実感しました。悲しいけれど、本当はもっとジュダルくんと一緒にいたいけれど、何を言ってもわたしは明日でいなくなってしまうのです。
わたしは大丈夫だって、わたしがいなくなっても元気でいてくださいって、そう言いたいのに、いろんな気持ちが混ざった心はうまく言葉を選べずに、時間だけが過ぎていきました。
ことばがたりない