「つーか気づけば、あと2日しかねーんだな…。」




早朝、またしても出掛ける用事があると言ったジュダルくんに叩き起こされたわたしは、寝起きでぼーっとしながら彼の後を着いて行ってます。この前わたしが泣いたのを、気にしてくれているのでしょうか。…それはそれで申し訳ないけど、ちょっと嬉しいです。




彼曰く、今日は皇子様とやらに会わなければならないらしく、広い王宮(本当におとぎ話みたいです)の中を歩いていました。…神官さんって、なんだかとっても忙しそうです。
(そんな中でわたしの面倒まで見てくれて、ジュダルくんはなんていい人なんでしょう)




「…そうですね、なんだかあっという間でした…。ジュダルくんは、急に丸一日いなくなっちゃいますし。」




「…っ、だから今こうして連れてきてやってんだろ。」




「ふふ、わかってますよ。」




ちょっとバツが悪そうな顔をしたジュダルくん。ぱっと見は気まぐれで他人に興味なさそうなカンジなのに、実はすごく優しくて繊細なんだって、一緒にいるうちに気づいたんです。




そんな彼といられるのも、あと2日、




「…あ、れ?」




つきん、と胸が痛くなる。どうしたんでしょう、わたしの体。突然こんな、だって今までこんなこと、なかったはず。




「(…違う…あの時も、たしか…)」




ジュダルくんが初めてわたしを絨毯に乗せてくれた時、きれいな景色をあと何度見られるのか考えた時にも、こんな風に胸が痛んでいたかもしれません。どうして、だって最初からわかってたはずです。5日間だけって、わたしは生かされているだけだって。




「(…わたし、)」




もっと生きたいと思ってる、死にたくないって、ここにいたいってそう思ってる。なんで、いつ死んでもいいと思ってた、仕方ないと思っていた、はずなのに、




「(最低だ…)」




きっと、ジュダルくんがいろんなことを教えてくれたから。おいしいものを食べて、きれいな景色を見て、知らなかった感情をくれたから。




「…おい、なまえ?」




いつの間にかわたしの目の前に来ていたジュダルくん、なんだか心配そうな表情で、わたしの顔を覗き込んでいます。




「なんで、泣いてんだよ…。」




「…え?」




ぽろぽろと目から流れ出るのは、わたしの涙。また泣いてしまったのか、情けないです、わたしったら。




「ご、ごめんなさい、あれ?おかしいな…。」




袖で涙を拭ってみても、まったく意味を為さず、止まることなく溢れてくる。涙腺がどうにかなってしまったのでしょうか、ここに来てからなんだか本当に涙もろくて困ります。




「擦んな、バカ。」




ぎゅう、そんな音がするくらいに強く、抱きしめられる。誰に、なんて聞くまでもない、ジュダルくんにです。




「ジュダルく…」




「誰も見てねーよ、…俺しかいねーから。」




だから泣きてーだけ泣け、って背中を擦られる。昨日は泣くなって言われたのに、やっぱりわたしがもうすぐいなくなるから、泣けるうちに泣いとけってことなんでしょうか。




「ふ、ぇっ…ジュダルくん…」




彼に出会わなければ、こんなに悲しくなることはなかった。こんなに泣くほど、弱いわたしになることもなかった。




だけど、彼に出会えていろんなことを教えてもらった。おいしい果物やきれいな景色だけじゃなくて、もっと素敵な、あったかい気持ち。




「(ああ、そうか、わたしはジュダルくんが―――――…)」




皇子様に会いに行かなきゃいけない、ジュダルくんは忙しい、わかってはいるのに、涙は止まってくれません。




だからせめて、この涙が止まるまでは―――――




「(好き、なんだ。)」




神様、どうか二人だけでいさせてください。











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