「…フロラさん?」




緑化委員の当番中、後輩のリセちゃんに声をかけられて、はっと我に返る。




いけない、わたしったら、ついぼーっとしてたみたいだ。




「ごめんねリセちゃん、なにかあった?」




「いえ、あの…花が死にますよ。」




「へ?―――――わああっ!」




リセちゃんに言われて見ると、目の前の花壇が水溜まりと化していた。どうやら同じ場所にずっと水をやり続けていたらしい。




急いで蛇口を捻って水を止めて、はあっとため息を一つこぼす。




「…どうしたんですか、フロラさん。」




「いや、あの…ちょっとぼーっとしちゃって…」




「ぼーっとしてたのは見てたからわかりますけど、何考えてたんですか?」




「…え、っと…」




そう言われて脳裏に浮かぶのは、昨日お菓子をくれたマスルールのこと。




…いや、別にお菓子くれたから気になってるとか、そういうわけじゃないんだけど。




でも一昨日は助けてくれたし、無表情だけど案外優しいし、というかわたしの方が彼に何かあげなきゃいけなかったんじゃないだろうか。




「…フロラさん、」




「えっ?あ…ごめん、」




どうやらまた自分の世界に入ってしまっていたらしい。リセちゃんはそんなわたしを見て、ああ、と呟く。




「恋煩いですか、」




「う、えっ?」




思わず変な声が出てしまった、昨日のシエナちゃんといい、なんでそういう話に繋げたがるんだろう。




「ち、違うよ、そんなんじゃないの。」




「…いや、今のフロラさんの顔は、恋する乙女の顔でしたよ。」




「それどんな顔なのリセちゃん。」




え、逆に気になるよ、わたしったら一体どんな顔してぼんやりしてたの。




「んー、一言で言い表すなら…ぽわーっとしてました。」




「…ぽわ?」




「大丈夫ですよ、別にブサイクだったわけじゃないから。」




「うう…」




そうは言われても、なんとなく納得いかない。というかそもそも、わたし別に恋なんかしてないし。




…そう、恋なんかじゃない、ただちょっと優しくされて、気になるってだけで。




そんなことを考えてたから、その日わたしはいろんな人に、何度もぼーっとしてることを指摘されるはめになってしまった。











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