「…へえ、あのマスルールがねー。」
購買で買ったであろうパンを齧りながらそう呟いたのは、同じクラスで仲良しのシエナちゃん。
昨日マスルールにテキストを運んでもらったことを話したんだけど、口ぶりから察するに、あんまり興味がなさそうだ。
(まあシエナちゃんが興味を持つ話題なんて、限られてるんだけど)
「で、何?マスルールのこと好きになっちゃった?」
「…へっ?」
右手から力が抜けて、手に持っていたお箸が机に転がる。
驚いて箸を落とすなんてマンガじゃないんだから、って思ったけど、シエナちゃんが言った言葉が衝撃的すぎたから、仕方ないと思う、うん。
「す、好きとかそんなんじゃないよ…別に…。」
「…そうなの?」
ぱちり、きれいに瞬いてわたしを見るシエナちゃんは、すごく不思議そうな顔をしてる。
「あんまり熱心に語るから、恋しちゃったのかと思った。」
「む…そんなんじゃないよ…たぶん…。」
「たぶん?」
しまった、と思っても時すでに遅し、シエナちゃんはなるほどね、と一人で納得したようにため息。
「自覚がないだけか、」
「あ、いやあの、違っ…」
「もーなんでもいいから、早くくっつけば?それがいいって、うん。」
「(投げやり!)」
さすがシエナちゃんと言うべきか、わたしの話なのに一人で勝手に自己完結してしまった。
(まあただ単にめんどくさいだけなんだろうけど)
「―――――あ、」
「へっ?」
わたしの背後を見て声をあげるシエナちゃんにつられて、わたしも思わず変な声を出してしまった。
おそるおそる振り返ると、そこにいたのはたった今話題に上がっていたマスルールご本人。
「…邪魔したか、」
「あ、ううん…そんなことないよ。」
「……………………」
相変わらず無表情で読めない、なんだろうこの人、何を考えてるんだろう。
「…あの、なにか用事?」
「…これ、」
机の上に置かれたのは、新発売のチョコレートのお菓子。しかもおいしいって評判のやつだ。
「…シャルルカン先輩にもらった。」
「へー。」
「…俺は好きじゃない、から…やる。」
「へ?わたし?」
自分を指差しながら問うと、こくりと頷くマスルール。
「え、でも…いいの?」
「…いらないなら、別に無理はしなくていい。」
「あ、そうじゃなくて、本当にわたしがもらっていいの?」
再びこっくり頷いたマスルール、相変わらず鋭い視線をわたしに向けてくる。
「あ、ありがと…。」
「…ああ。」
机に置かれた箱を手に取ると、用件が済んだからか、マスルールはどこかに行ってしまった。
「…ど、どうしようシエナちゃん、」
ことの成り行きを黙って見ていたシエナちゃんに声をかけると、彼女はとってもめんどくさそうに一言。
「早くくっつけ。」
もどかしい火曜日