「…お、もいよぅ…。」




クラスの人数分の数学のテキストを山積みにして抱えながら、廊下をふらふらと蛇行する。




別に好きでくねくね進んでるわけじゃないんだけど、視界が覆われるくらいテキストが高く積まれてて前が見えないし、腕にかかる重みが半端じゃなくて、うまくまっすぐ歩けないのだ。




いくら日直だからって、女の子にこんな重たいものを持たせるなんてどうなんでしょうか、ヒナホホ先生。




「ううっ…腕が痛い…。」




だんだん手が痺れてきて、目の前の山がぐらぐらとバランスを崩し始める。




離しちゃダメだ、って頭ではちゃんとわかってるのに、もう体が限界で言うことを聞いてくれなかった。




「―――――あ、」




山のてっぺんからテキストが落ちていくのが、スローモーションで見える。




ヤバい、って思った瞬間、横から長い腕が伸びてきて、わたしの手からテキストの山を攫っていった。




「…大丈夫か、」




「…?あ、マスルール。」




声のした方を向くと、同じクラスのマスルールがいた。わたしが両手でも持つのに苦戦していたテキストの山を、片手で軽々と持っている。




「わ、マスルールすごいね。重くないの?」




「…別に、これぐらいなら全然重くない。」




「わたし両手でも大変だったのに…片手でなんてとても無理だよ。」




「……………………」




鋭い目線でわたしを見るマスルール、ちょっとだけ怖くてたじろぐと、ふいっと顔を背けて歩き出してしまった。




「え、ま、待ってよマスルール、」




「…どこだ、」




「え?な、なにが?」




「これ…どこに持って行けばいい。」




「へ、え…っと、…あ、それ?」




これ、というのが彼が今持ってくれているテキストの山を表しているということを理解するのに、必要以上の時間をかけてしまった。




だけどマスルールは別に怒る様子もなく、普段と同じ無表情のままこくりと頷く。




「え、と…それは職員室に…」




「…わかった。」




わたしの返答を聞くと、何事もなかったかのように再びすたすたと歩き出してしまう。




「あっ、ねえマスルールいいよ!わたしが頼まれた仕事だし!」




「…重たいんだろ、」




「…そう、だけどっ…」




「お前じゃ危なっかしいから、俺が持っていく。」




リーチの差なのかなんなのか、マスルールはどんどん先に行ってしまう。




「ちょ、待ってよマスルール。」




「…どうした、」




「どうした、じゃないよ。…本当にいいの?」




「…フロラが運ぶより、俺が運んだ方が安全だからな。」




「…じゃあ、一緒に職員室まで行こう?」




まさかマスルールに運ばせて、わたしだけがはいさようならなんてわけにもいかない。




まあ確かに、わたしが運ぶより彼が運んだ方がいいのは事実だし、ここは甘えておこう、うん。




「…ありがとう、マスルール。」




「…大したこと、ない。」




照れたように少しだけ頬を染めながら、わたしから視線を逸らす彼にときめいたのは、わたしだけの秘密。











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