「…そう、よかったね。」
後日、わたしより早くわたしの気持ちに気づいていたシエナちゃんに、マスルールと両想いだったことを報告。
相変わらずめんどくさそうにしていたけど、それでも少しだけ喜んでくれた。
「…てゆーか、わかってたけどね。」
「うん?」
「二人が両想いなことくらい。」
「―――――えぇっ?」
ぱちぱちと瞬いてシエナちゃんを見ると、呆れた表情で、気づいてなかったのは二人だけだから、って言われた。
(え、だって、ということはつまり、)
「最初から、わかってたの…?まさかジャーファル先輩も?」
「そりゃそうだよ、後輩のあの子…リセちゃんも知ってたんじゃない?」
「ええっ!」
え、だってリセちゃんにはマスルールのことも言ってないし、ましてや好きだなんて教えてないのに!
(いやでも、あの子鋭いから、もしかしたらもしかするのかな)
「それくらい二人がわかりやすかったってこと。」
「うぅ…そうかなあ?」
「見てるこっちはもう、もどかしくて仕方なかったよ。」
「うー…」
その後もシエナちゃんは散々わたしを詰りながらも、やっぱり最終的には、よかったね、って言ってくれた。…持つべきものは、素敵な友達だね、うん。シエナちゃんも早くジャーファル先輩と……………いや、ここから先はやめとこうか。
―――――…
ピリリリリリッ
夜、シエナちゃんとバイバイして家への帰り道をのんびり歩いていると、ポケットに入れていたケータイが突然音を立てて鳴り出す。
慌てて取り出し、サブディスプレイを見ると、名前じゃなくて番号が表示されていた。電話帳に登録されていないであろうその番号に見覚えはなく、出るのを一瞬躊躇うけれど、勇気を出して通話ボタンを押す。
「…はい、もしもし?」
『…もしもし、』
「…?え…ひょっとして、マスルール?」
受話用スピーカーから聞こえる、電話特有の、ノイズ混じりのぼやけた声。だけどわたしに電話の向こうの相手を認識させるには、十分だった。
『…ああ、』
「え、なんで番号…教えたっけ?」
『…ジャーファル先輩に、聞いた。』
「そう…なんだ。」
ひ、人の電話番号を勝手に教えるなんて、あの人は…。でもまあジャーファル先輩にはお世話になったし、きっと先輩なりにちゃんと考えて判断して、マスルールに教えたんだろう。いやむしろ、マスルールだったから教えたんだ、他の人だったら簡単には教えなかったはずだ。
(そうだと思いたい、てゆかそうじゃなきゃ困る)
『…やっとくっついたか、って言われた。』
「そうなの?…わたしもシエナちゃんに同じこと言われたよ。」
『…そうか。』
「うん。」
やっぱりマスルールは口数が少ない、話はすぐに途切れるし、簡単な返事しか返ってこない。だけどわたしは、この空気感がなんとなく嫌いじゃなかった。会話が弾まなくても気まずくないし、無理して話題を振ることもない。顔も見えない、電波で音声が伝わるだけの繋がりなのに、無言でさえ不思議と心地いいのだ。
『…フロラ、』
「うん?」
『明日…朝…』
「朝?」
そこで言葉を止めて、黙り込むマスルール。なんだろう、言いたいことを考えてるのか、それとも何かを言うのに躊躇してるのか。
「マスルール…?」
『…やっぱりなんでもない。』
「え?う、うん。」
『じゃあ…また明日。』
「あ、うん。また明日。」
結局話の続きは聞けないまま、ほぼ一方的に電話を切られてしまった。プーップーッと無機質な機械音だけが、スピーカーから耳に直接響いてくる。
「…なんだったんだろ、」
よくわからなかったけど、ディスプレイに表示された"この番号を登録しますか?"のメッセージに胸が高鳴って、わたしは考えるのをやめた。
わたしのケータイにマスルールの番号が登録されるように、少しずつ、少しずついろんなことを知って、記憶に残していけばいい。
家はもう目の前、まだ今日は終わっていないのに、明日マスルールに会えることに思いを馳せるわたしの足取りは、自然と軽くなっていた。
君に会いたい日曜日